BLドラマとLGBTドラマの境目を超える!? ゲイカップルの日常描く『きのう何食べた?』の可能性

『きのう何食べた?』が示す可能性

『きのう何食べた?』第2話より (c)「きのう何食べた?」製作委員会

 しかし、ここで忘れてはいけないのは、現在、次々に映像化されている男性同士のラブストーリー群はBLが原作であったりベースであったりするということ。主に女性のクリエイターが発想する女性のためのファンタジックな物語とキャラクターであり、実際にゲイの人が好むものとは異なる場合が多い。地上波では『隣の家族は青く見える』(2018年/フジテレビ系)がまずその先駆けとなり、その直後に放送された『おっさんずラブ』(2018年/テレビ朝日系)が起爆剤となった。他にもBL漫画を原作に男性同士のベッドシーンまで描いた『ポルノグラファー』(FOD)や、東海ローカルで放送中の『his ~恋するつもりなんてなかった~』(名古屋テレビ)などがあるが、作風や萌えの方向としてはいずれもBLの範疇に収まる。

 一方、ゲイのクリエイターが発信するリアルな男性同士の物語は、まだメジャーなドラマ枠では放送されていない。NHKがBSプレミアムで放送した『弟の夫』(2018年)は、ゲイ・エロティック・アーティストと名乗る田亀源五郎の漫画が原作でそれに該当するが、主人公の弟が外国で同性婚したあと亡くなり、そのパートナーと主人公が対面する家族の物語で、男性同士の性愛を描いた内容ではなかった。

 4月20日にはBLファンである腐女子とゲイの少年が交際する『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK)もスタート。平成の終わりから“美しい調和”を表わす令和の始まりへ。同性愛を描くドラマは明らかに増え、新たなステージに入ってきている。それでも、例えば男性同士の恋愛に比べ、女性同士の恋愛をメインテーマにしたものはなく、最近では『中学聖日記』(2018年/TBS系)に少しそういう描写があったものの、ドラマで描かれるのはまだまだこれから。同性愛を妄想として楽しみたいコミックファンと現実的な問題を抱えるLGBTの人、その両方から支持され、ダイバーシティ(多様性)の実現にひと役買えるようなドラマが出てくるのかどうか? やや楽観的な見込みかもしれないが、元号をまたいで放送される『きのう何食べた?』と『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』にはその可能性が大いにある。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
『きのう何食べた?』
テレビ東京系にて、毎週金曜深夜0:12〜放送
※テレビ大阪は翌週月曜深夜0:12〜放送
原作:よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社『モーニング』連載中)
主演:西島秀俊、内野聖陽、マキタスポーツ、磯村勇斗、チャンカワイ、真凛、中村ゆりか、田中美佐子、矢柴俊博、高泉淳子、志賀廣太郎、山本耕史、梶芽衣子
第1話ゲスト:佐藤仁美、MEGUMI
脚本:安達奈緒子
監督:中江和仁、野尻克己、片桐健滋
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:松本拓(テレビ東京)、祖父江里奈(テレビ東京)、佐藤敦、瀬戸麻理子
OPテーマ:「帰り道」O.A.U(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)<NOFRAMES / TOY’S FACTORY>
EDテーマ:「iをyou」フレンズ<ソニー・ミュージック・レーベルズ>
制作:テレビ東京/松竹
製作著作:「きのう何食べた?」製作委員会
(c)「きのう何食べた?」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kinounanitabeta/
公式Twitter:@tx_nanitabe

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる