大泉洋主演ドラマ『ノーサイド(仮)』も決定 池井戸潤原作の映像化にみる“経済時代劇”的手法

池井戸潤原作が映像化される理由とは

 『七つの会議』の場合、映画も原作と同じタイトルだった。ただ、物語の構成に関しては、けっこうアレンジされている。会議では居眠りしているぐうたら係長が、営業成績抜群の課長を社内委員会にパワハラだと訴えた。会社にとって大切なはずの課長が守られるかと思われたが、なぜかあっさり更迭される。それをきっかけに取引先、親会社も関係するとんでもない事態が、徐々に明らかになっていく。小説ではその騒動を章ごとに視点人物をかえて語っている。映画でも複数の立場から描かれるが、人物ごとのエピソードのわりふりは変更され、野村萬斎の八角係長が主人公としてより際立つストーリーになっている。

 本名は「やすみ」だが社内で「はっかく」と呼ばれる彼が登場する原作の第一話は、「居眠り八角」と題されていた。遊び人の金さんは実は北町奉行だったとか(『遠山の金さん』)、高貴な方が別人のふりで江戸の町に入って悪を退治するとか(『暴れん坊将軍』)、変身ヒーローのごとく正体を隠すのは、時代劇の定番だ。「居眠り八角」もその種のヒーローであり、映画は彼の存在を膨らませて脚色されている。

『七つの会議』(c)2019映画「七つの会議」製作委員会

 ゼネコンの談合を題材にしてNHKでドラマ化もされた『鉄の骨』に関して、池井戸は主人公の名前から当初は「走れ平太」という題名を考えていたという。人物を中心に物語を動かそうという発想をもともと原作者は持っており、それを増幅する形で映像化するのが素直なやりかたといえるだろう。

 様々な会議がポイントとなる『七つの会議』に関し、親会社の幹部の前で子会社の面々が責められる御前会議が山場となるのは、原作と映画で共通している。御前様と呼ばれる親会社社長は北大路欣也、香川照之や野村萬斎を部下に持つ子会社社長は橋爪功だが、二人とも時代劇経験が豊富な役者だ。しかも、映画の御前会議では、片岡愛之助が橋爪功につかみかかろうとして止められる。この場面などは、これまで何度も舞台化、映像化されてきた『忠臣蔵』そのもの。横暴な吉良上野介に切りかかった浅野内匠頭が「殿中でござる」と戒められ押さえられる場面そっくり。橋爪はかつて、テレビ東京系『忠臣蔵~決断の時』で吉良を演じたことがある。

『七つの会議』(c)2019映画「七つの会議」製作委員会

 映画では、武士が藩に忠誠を誓ったごとく、今では社員が会社に従うといった示唆的なセリフまである。作品のほうから、これは時代劇だと解説してくれているようなものだ。

 『忠臣蔵』の源流である『仮名手本忠臣蔵』もそうだが、身分の上下が固定されていた江戸時代に作られた歌舞伎や人形浄瑠璃では、忠義を題材にした悲劇が多く語られた。自分が属するグループや代々続く家系を守るため、個人を犠牲にすることが正しいとされた。主君が敵に殺されるのを救うため、家来が身替りで死ぬことさえ美談とされた。そうした悲劇のなかの激情が、歌舞伎特有のあの化粧で演じられたわけだ。

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