『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』“孤独な女の王”としての2人の生き方 現代にも通ずる物語に

『ふたりの女王』“孤独な女の王”としての生き方

確執のはじまりは

 対極的なふたりが執着し優先させたものとは、エリザベスは権力であり、メアリーは心であったといえよう。本作はそんなふたりの生き方、女性としてのイデオロギーの対決の物語であるともいえるのだ。

 だがしかし、そんな対照的なふたりには唯一の共通点があった。それは、“女王”であるということ。メアリーとエリザベスは共に孤独な“女の王”であったのだ。男性たちが君臨する世界で女性ひとり、彼らと渡り合っていかなければいけない。そのこともあってか、二人は実際に多くの手紙のやり取りをし、お互いを姉妹とまで呼び合うほどの友情を育んでいた。だが次第に二人の友情はライバル心に変わり、そしてそれは陰謀と戦争を巻き起こすのであった。

 “ヴァージン・クイーン”としての道を選んだエリザベスは自分の王としての優位を見せつけるため、愛人であるロバート卿をメアリーの結婚相手として提案するのである。しかしエリザベスの思惑を知っていたメアリーは、その申し出を快諾する旨を伝えてしまう。こうなっては自分よりも若く美しいメアリーにロバート卿を奪われてしまう、とエリザベスは狼狽する。

 エリザベスは成熟した女性ながら真の“ヴァージン・クイーン”ではなかったのである。華美に着飾り、彼女もまたひとりの女性であったのだ。

 比べてメアリーの若さと美貌は、その洗練された身なりから見てとれる。女性として、エリザベスはメアリーに自分は劣っているのかもと感じたのかもしれない。さらにメアリーの再婚と出産により、エリザベスは自分が選んだ道であるにしても、権力に執着した自分に後悔を抱きはじめた。

 自らを律し、国家、そして権力と自身の命を優先させたエリザベスにはないものを、奔放に振る舞い女王としての信念、そして女性としての心を優先させたメアリーは持っていたのである。何かを得るには、他のものを諦めざるを得ない場合がある。このことは現代に生きる女性たちにも通じる難しい問題である。

 時代や立場こそ異なれど、あらゆる思惑や悪意の渦巻く世界で我々は、そして女性たちは決してメアリーのような無垢な少女のままではいられないのであろう。また、そうであってはならないのかもしれない。ここにジョージー・ルークという女性監督が主人公をメアリー・スチュアートにした思惑があるのではないだろうか。

 だがラストのメアリーの処刑で彼女はキリスト教の殉教者のように真っ赤なドレスを身に纏っている。メアリーという女性は、命を賭して自らの無垢さ、そして女王としての信念を貫いたのである。

 最後に、もしこの作品を観て同時代の主にイングランドの歴史や、エリザベス1世女王の治世に興味を持ったなら、『エリザベス』(98年)、『エリザベス・ゴールデンエイジ』(07年)の他に、『ブーリン家の姉妹』(08年)、『もうひとりのシェイクスピア』(11年)をおすすめしよう。そこには華麗な宮廷物語ではない、人間の欲望と陰謀が渦巻く真実の姿があるのだ。

■九悩ちか千代
映画とロックとアメリカ文学を愛するデザイナー。人生のバイブルは『地獄の黙示録(特別完全版)』と『ファイト・クラブ』。

■公開情報
『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』
全国公開中
出演:シアーシャ・ローナン、マーゴット・ロビー、ジャック・ロウデン、ジョー・アルウィン、デヴィッド・テナント、ガイ・ピアース
監督:ジョージー・ルーク
脚本:ボー・ウィリモン
音楽:マックス・リヒター
ユニバーサル作品
配給:ビターズ・エンド、パルコ
2018年/イギリス/124分
(c)2018 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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