木村拓哉は平成が生んだ唯一のスターである 2番手・3番手の時代、絶対的主演を経た今後への期待

 また、その「第一形態」とは異なるキャラクターを『ロンバケ』前後に体現。キーワードは“悪”“ミステリアス”“クール”だ。作品でいうと『古畑任三郎』2nd season「赤か、青か」で観覧車を爆破しようとする研究者や、『ギフト』の記憶をなくした運び屋・早坂由紀夫、『眠れる森』(すべてフジテレビ系)でヒロインの敵か味方かわからない存在として登場する伊藤直季などが挙げられる。これらを「第二形態」と考える。

 他にも『織田信長 天下を取ったバカ』(TBS系)『プライド』(フジテレビ系)『華麗なる一族』『安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~』(ともにTBS系)『アイムホーム』(テレビ朝日系)等、さまざまな作品で緻密で斬新なキャラクターを構築してきた木村だが、今はあえて「第一形態」「第二形態」に的を絞って語らせて欲しい。

 昨年と今年で木村拓哉主演の映画を2本観た。1つは『検察側の罪人』、そしてもう1つは『マスカレード・ホテル』だ。

 『検察側の罪人』で彼が演じたのは己の“正義”を貫き通すために、人を殺める検事の最上毅。この作品での木村の演技は「第二形態」をさらに進化させた凄まじいものだった。初めてピストルを握った人間の恐怖、殺人を犯す時の全身の震え、自身の正義を守るために犯罪へ走ることへの葛藤、妻子に冷たくあしらわれる夫――。これまで見たことのない木村拓哉がそこにいた。

 かわって『マスカレード・ホテル』は非常に“安心”して観られる映画だ。監督も座組みメンバーの多くも木村の代表作の1つ『HERO』と重なっており、画面のテイストも見慣れた空気感。彼が演じる刑事・新田とヒロインとの対立関係から信頼が生まれ、次第にそれが恋愛感情に発展するのも、脇を手練れの俳優陣が固めているのも月9やTBSのドラマでずっと見てきた光景だった。

 興行収入は『検察側の罪人』が29億円なのに対し、『マスカレード・ホテル』が現時点ですでに40億円超えと、興行成績だけでいえば『マスカレード・ホテル』の圧勝である。

 ここで今年1月にTBSのバラエティ番組『モニタリング』で、木村拓哉がターゲットとなり、『マスカレード・ホテル』で共演した勝地涼(仕掛け人)から「引退したい」と相談されて、自身の心情を吐露するあの場面を思い出して欲しい。

 「言われるもん、何やったってキムタクだって」「やることなすことね、いろいろ叩かれるから」

 安全な場所からスターを眺める観客は残酷だ。「何をやってもキムタク」と彼を叩きながら、新たな挑戦に対しては「これが観たいんじゃない」と、そのチャレンジを突っぱねる。『ロングバケーション』や『ラブジェネレーション』『HERO』等、「第一形態」のキャラクターを後追いしているのは、木村本人ではなく、彼の髪型を真似し、彼が着た皮のダウンジャケットを買うためにショップに並んで、雑誌『an・an』の「抱かれたい男」アンケートに彼の名前を書き続けた私たちなのである。

 日本のエンタメ界では、俳優が歳を重ねれば重ねるほど“絶対的主演”でいるのが難しくなる。役所広司も佐藤浩市も中井貴一もある時からは助演に回ることが増えた。50歳という節目の年齢が見えてきた今、平成から新元号に時代が変わろうとするこの時、スターとして、そして地に足の着いた俳優として時代を駆け抜けた木村拓哉が次にどんな「第三形態」を魅せてくれるのか……同時代を生きる観客として、しっかり目に焼き付けていきたいと思う。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる