中村勘九郎と生田斗真が直面した“異国”での孤独 『いだてん』が描いた日本人初の一歩

『いだてん』が初のオリンピック選手を描く意義

 そんな弥彦を立ち直らせたのは四三だ。声を荒げた弥彦に対して「だったら気楽じゃなかね!」と語気を強めて発し、声を押し殺して泣く弥彦には「負けて当たり前、勝ったら儲け」と声をかけた。同志として共に練習に励んできた相手に真摯に向き合う意志が、相手から目を背けない中村の演技から伝わってくる。

 もちろん、四三も日本人初のオリンピック選手としてプレッシャーを抱えていた。自暴自棄になった弥彦、病状が悪化するばかりの兵蔵を前に、中村は折れそうな声で「日本人にとって、最初で最後のオリンピックとなるでしょう」と四三の心境を語った。

 だが、自室の窓から飛び降りようとした弥彦を必死で止めた四三はこう言った。

「我らの一歩は日本人の一歩たい!」

 中村は生田の肩をガッと掴むと、凄まじい形相でこの台詞を発した。四三から逃れられない状況でこの言葉をかけられた弥彦はよりプレッシャーを感じたかもしれない。しかしそれ以上に、彼らの「日本人初のオリンピック選手」としての誇りが伝わってくる台詞だった。

 四三と熱い抱擁を交わす弥彦。プレッシャーから解放されたように、生田は清々しい笑顔を見せた。

 昨今、数多くの日本人スポーツ選手が世界各国で活躍している。金栗四三と三島弥彦はその第一歩だ。「日本人初のオリンピック選手」である彼らの感じていたプレッシャーと誇りを知ることで、その意義と凄さを見出すことができる。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ/綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花/ 森山未來、神木隆之介、橋本愛/杉本哲太、竹野内豊、 大竹しのぶ、役所広司
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/
写真提供=NHK

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