『PSYCHO-PASS サイコパス』は現代の空気を反映 ディストピアに逆らう、熱い人間ドラマ描く

『PSYCHO-PASS』ディストピアに逆らう人間ドラマ

絵空事ではない管理社会への警鐘

 『PSYCHO-PASS サイコパス』は2012年にTVアニメシリーズが放送され、そのハードなSF設定と密度ある大人のドラマで人気を博した。シビュラシステムと呼ばれる生涯福祉支援システムによって、人の精神状態を分析し数値化、個人の適正にあった職業や結婚相手を、全てシステムが決定する究極の管理社会を描いている。その数値は「PSYCHO-PASS」と呼ばれ、色によって表現される。ストレスが溜まると色相が濁り、将来犯罪を犯す可能性を示した「犯罪係数」と呼ばれる数値が上昇し、基準値以上に達した人間は「潜在犯」と呼ばれ、執行対象となる。この潜在犯に対処する公安局刑事課に属する面々の活躍やシステムに対する疑念、葛藤などが物語の本筋だ。

 元々、本作のアイデアは、制作スタジオProduction I.Gの代表作である『攻殻機動隊』シリーズや『機動警察パトレイバー』とは違う雰囲気のSF刑事ものを、という発想から生まれたものであり、ウィリアム・ギブスンのサイバーパンクではなく、ディックの思想実験的な要素に注目したという(参照https://animeanime.jp/article/2012/10/19/11795.html)。犯行前に数値によって潜在犯を特定するというアイデアは、予知能力を犯罪予防に用いて犯行前に逮捕する世界を描いたディックの『マイノリティ・リポート』に近い発想だ。シビュラシステムというネーミングに関しても、ディックの短編『シビュラの目』を連想させる。

『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に__』(c)サイコパス製作委員会

 犯罪係数の高い潜在犯にはその場で刑を執行できるという点は、イギリス発のコミック『ジャッジ・ドレッド』も連想させるが、基本的な世界観は、ディックの思い描いたディストピア型の管理社会であり、この世界観の選択は、単なる消去法以上に現代社会に即した選択だったと言える。

 本作のTVシリーズ1期が放送された翌年には、米国家安全保障局(NSA)があらゆるネットワークとネットサービスを介して、国民を監視していることを知らしめた「スノーデン事件」が起こり、前述したように中国社会は急速に数値による管理社会を実現しようとしている。『PSYCHO-PASS サイコパス』の描く世界は、確実に時代の空気と呼応しており、絵空事の未来社会ではないことを実感させるのだ。

管理社会への抗議としての人間ドラマ

 ディックの『マイノリティ・リポート』は、殺人を犯すと予言された犯罪予防局の長官が、それをくつがえすために行動するが、そのことを利用して未来予知システムの不備を指摘し、クーデターを企てる男がいることを突き止める。長官が殺害すると予言された男は、そのクーデターの首謀者であり、社会システム全般を守るため、長官はあえて予言どおりに殺害を実行する。

 予言は確かに的中した。しかし、事前にその予言を知り、自らの行動を変え得る立場にあった長官は、それでもあえて社会全体を守るために予言通りに実行することを決める。結果だけ見れば、システムが予見した通りの結果だが、それを導いたのは人間の意思である。管理社会のディストピアであっても、未来の決定の全てをシステムに委ねるのではなく、人が意思を持って選択すべきだというディックの主張が見て取れる。

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