『いだてん』は“ダメな庶民のダメな話”を綴る? 通常の大河ドラマとは異なる2つのポイント

ダメな庶民のダメな話

 『いだてん』は「東京オリムピック噺」とサブタイトルがついているように、落語が非常に重要なモチーフになっている(噺とは落語のことを表す)。ビートたけし演じる昭和の名人・古今亭志ん生がナビゲーターになって物語を進めていくが、もともと宮藤官九郎は古今亭志ん生を中心とした戦中・戦後・近現代のドラマを構想していたのだという(NHK大河ドラマ・ガイド『いだてん』前編・NHK出版)。

 落語とは、庶民の話だ。おおまかに言えば、ダメな庶民のダメなエピソードを「しょうがねぇなぁ」と笑うのが落語というものである(「しょうがねぇなぁ」はビートたけしの口ぐせでもある)。金栗四三、田畑政治をはじめ、『いだてん』の登場人物たちはいずれも庶民であり、落語の世界がふさわしい。

 これまでの大河ドラマは、講談の世界が近い。講談は釈台と呼ばれる小さな机の前に座り、張り扇を叩いて調子を取りながら読み上げる話芸で、そこで語られるのは主に「軍記物(軍記読み)」と呼ばれる戦国時代の武将や武士たちの勇ましい物語である。また、『水戸黄門』や『大岡越前』などの時代劇は講談がルーツだと言われている。講談師の旭堂花鱗は「落語はエピソード、講談はストーリー」と両者の違いを表現している。

 これまでの大河ドラマが講談の世界なら、『いだてん』は完全に落語の世界。有名な武将の勇ましい話ではなく、ダメな庶民のダメな話を描いているのだ。さらに、大きなストーリーではなく、小さなエピソードを重ねることでドラマを作り上げている。宮藤官九郎も「何より将軍様の話じゃなくて、庶民の話がやりたいので、下町の世界観を持っている落語がしっくりくると思います」とはっきり語っていた(NHK大河ドラマ・ガイド『いだてん』前編)。

 完全に今までの大河ドラマとは一線を画しているクドカン大河『いだてん』。これまでの大河ドラマの視聴者が離れていくのはある意味当然のことであり、それならそれで『いだてん』を楽しめる人たちが楽しめればいいのである。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45 
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45 
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ/綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花/ 森山未來、神木隆之介、橋本愛/杉本哲太、竹野内豊、 大竹しのぶ、役所広司
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/
写真提供=NHK

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる