佐藤健、“走りの俳優”としての本領発揮 『サムライマラソン』走り続けることの苦しみと喜び

『サムライマラソン』“走りの俳優”佐藤健

 ところでマラソンとは、特別な用具を必要とすることなく、極端なことをいえばこの身ひとつで、時も場所も選ぶことなく、誰にでも挑戦できる開かれたスポーツだ。隆盛を極めたマラソンブームも、いまや下火となっているようだが、同スポーツを大きく扱った大河ドラマ『いだてん』(NHK)の放送が、また着火剤ともなるのではないだろうか。とはいえ、いつの時代も辺りを見渡してみれば、走ることに魅了されている者は非常に多い。筆者もまたそんなひとりである。

 走ることというのは、とかく自分との戦いだと言われるが、マラソン(大会)においては周囲の者がいなければ成り立ちはしない。そして自分以外の者があるとなれば、とうぜんそこに競争心が生まれてしまうことは避けられないだろう(しかし翻って、これに乗っ取られぬよう自分のペースを守る、という自分との戦いを迫られるのだ)。山あり谷あり、それぞれの想いを胸に果てなき(と、感じる)道をゆくマラソンは、人生の縮図だとも思える。個人戦ではあるものの、ランナーたちみなは一丸となってゴールを目指し、流れていく景色や天候、そして走ることで得られる苦しみや喜びを共有し合うことになるのだ。それにはたと気づいたランナーひとりひとりが感じるのは、やはり、えも言われぬ一体感だろう。

 本作では、“行きはマラソン 帰りは戦”のコピーにあるとおり、ゴールを目前にしたクライマックスに、幕府の刺客たちとの大きな戦いが待ち受けている。それは個人戦では乗り切れないものだ。ここは実際のフルマラソンで、あと残り4、5キロといったところがじつに苦しいというものを、表象しているとも受け取れる場面だ。しかしまわりを見渡せば、同じ道のりを駆けてきた同志たちがいるではないか。本作のランナー(=侍)たちは、藩を守るべく力を合わせて刺客たちを打破し、ゴールへとなだれ込む。それぞれの思惑を胸に競い合っていた者たちが、やがて一体となる歯切れのいい幕切れはじつに清々しい。それは、定番ナンバー「サライ」を、思わず脳内再生してしまうほどである。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

■公開情報
『サムライマラソン』
全国公開中
出演:佐藤健、小松菜奈、森山未來、染谷将太、青木崇高、木幡竜、小関裕太、深水元基、カトウシンスケ、岩永ジョーイ、若林瑠海、竹中直人、筒井真理子、門脇麦、阿部純子、奈緒、中川大志、ダニー・ヒューストン、豊川悦司、長谷川博己
監督:バーナード・ローズ
原作:土橋章宏「幕末まらそん侍」(ハルキ文庫)
脚本:斉藤ひろし、バーナード・ローズ、山岸きくみ
企画・プロデュース:ジェレミー・トーマス、中沢敏明
音楽:フィリップ・グラス
衣装デザイン:ワダエミ
配給:ギャガ
(c)“SAMURAI MARATHON 1855”Film Partners
公式サイト:https://gaga.ne.jp/SAMURAIMARATHON/

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