安田顕が語る、キャリアを積んだ今だからこその演技論 「色んな感情の起伏が出てくる」

安田顕が語る、演技論

「“引きの画"っていいですよね」

ーー本作は男性陣が右往左往しています。その中心で芯を持っているのが松下奈緒さん演じる恋人の真里ですね。

安田:松下さんは素敵だしすごく面白い方でした。気さくですし、ご一緒していて楽しかったです。この作品における真里ちゃんの存在はすごく大きくて、精神的には女性の方が強いんだろうなと。母を慮るよりは、失うことへの「嫌だ」という気持ちが強かっただろうし、真里ちゃんのポジションじゃないと言えないものがあると思います。

ーー駐車場でのやりとりも救いがありましたね。

安田:そうですね。ああいう本音でのケンカってそうそうできないですから。

ーー一方で、男性陣は言葉を口にはしないですよね。村上淳さん演じる兄と石橋蓮司さん演じる父と、お墓を買いに行くシーンや一緒にタバコを吸うシーンは台詞はないですが、会話が成立しているような雰囲気がありました。

安田:僕もあのシーンは撮りながら、「うわ! 映画撮ってる!」って思いましたね。タバコを吸うシーンにしても、それぞれ見ているもの、感じていることがちょっとずつ違うんだろうけど、寂しさだったりそこからどう進んでいこうとか、そういうものを共有している。だから"引きの画"っていいですよね。僕もあのシーンすごく好きなんだ。なぜ好きなのか漠然としていたけど、きっと今言ってくれたことが理由かもしれないですね。

ーーその後、3人で湖に向かい感情をぶつけ合いますが、あのシーンは原作にはありませんでしたね。

安田:僕が子どもの頃は、高校生が夕日に向かって叫んだりするドラマがあったんだけど、大の大人が、あれをやっちゃうのがなんとも好きで。「泳ぐぞ!」って言って、親父が「泳げない」、俺も「泳げない」、兄も「俺も泳げねえ!」って(笑)。言葉にならないものがいっぱいあるような気がして、そこに見ている側は心が動かされていくんでしょうね。

「撮ってきたものに対して、色んな感情が溢れていました」

ーーこれまで演じてこられた役柄だと、安田さんは同年代や下の世代の方とぶつかり合う印象があります。

安田:そうなんですかね……。何年か前に笑福亭鶴瓶さんと『スジナシ』という番組で2人芝居をしたんです。その時に鶴瓶さんが「ぶつかり合うんじゃなく、一緒に作っていくんだよ」とおっしゃっていて。僕は、「その感覚か」と思いました。文字通りぶつかるというよりは、ともに1つの作品に向き合って作っていくという。今回、倍賞さんや石橋さんとの共演を通して勉強になるところが多くありました。年齢を重ねていくことは心のヒダが沢山できることだと思います。それができれば、普通の格好で普通に喋っていても、その人のヒダってきっと伝わりますよね。女装したり眉毛を潰して怖い格好したりするアプローチは、僕の性に合っていて、それを求めて下さる方も多いのですが、本当はそれを取っ払っても、年齢を重ねていけば色んな感情の起伏が出てくる。お二人の芝居からは、そういったものを感じました。

ーー見ている側としては、柔和な雰囲気の姿から突然叫んで泣いて曝け出す姿に、安田さんのヒダが表れているように感じました。

安田:ありがとうございます。鼻水垂らして泣くシーンが最終日だったんだけど、気づいたら、台本一枚一枚に無意識に手を当てている自分がいて。撮ってきたものに対して、色んな感情が溢れていました。それくらいあの台本が愛おしかったし、その時の自分にとっての精一杯を出し切れたのかなと思います。

ーー安田さんは昨年から『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』『愛しのアイリーン』と主演作が続いてますね。

安田:本当にありがたいことです。ただ、それは今までの貯金だったりするので、コンスタントに色んな役をやれることが一番嬉しいことだけど、ひとつひとつ今いただけたものを感謝してやっていくしかないです。「これで大丈夫だ」という気持ちは全然ないし、至らないところはたくさんあると自分では思います。また今回のような作品に出会えたらいいですし、周りの方から、自分が常に後押しされる存在であるように一生懸命やっていくしかないと思います。

(取材・文・撮影=安田周平)

■公開情報
『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』
2月22日(金)全国順次ロードショー
出演:安田顕、松下奈緒、村上淳、石橋蓮司、倍賞美津子
監督・脚本:大森立嗣
原作:宮川サトシ『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』 (新潮社刊)
音楽:大友良英
主題歌:BEGIN「君の歌はワルツ」(テイチクエンタテインメント/インペリ
アルレコード)
配給:アスミック・エース
(c)宮川サトシ/新潮社 (c)2019「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会

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