中村勘九郎と生田斗真、オリンピックに向けて“同志”に 『いだてん』舞台はストックホルムへ

『いだてん』四三と弥彦が“同志”に

 一方で、金があるのに行けない弥彦も治五郎の口車に乗せられたと言えよう。天狗倶楽部の弥彦の闘争心をくすぐるような記事を目の前で読み上げられることで、頑なにオリンピックへは行かないと答えていた彼の考えが変わる。ただ、エントリーフォームにサインするも、家族への説得は完璧ではないようだ。海外の食事マナーを学ぶことになった一行は、弥彦の住む豪邸を使うことになった。だが、三島家では弥彦の母・和歌子(白石加代子)が常に睨みを利かせているし、兄・弥太郎(小澤征悦)はオリンピック関係者に見向きもしない。弥彦も「母は兄にしか興味がない。兄は金にしか興味がない」と話し、三島家の冷めきった親子関係が伝わる。しかし弥彦が趣味の写真で四三の晴れ姿を撮影した際、彼が現像する写真の中には母親の姿を切り取ったものもあった。母の写真を見つめる弥彦の表情は決して冷めきったものではなく、むしろ家族を愛おしく感じている表情だ。

 生田は、天狗倶楽部に所属する弥彦の暑苦しさをイキイキと演じつつ、家族に対する複雑な感情を繊細に演じている。四三に対してフレンドリーに接しながらも、家族から応援されている四三に発した「羨ましいなあ」という言葉は紛れもなく彼の本音だろう。日々自信家な一面を見せている弥彦が、笑顔を“つくってから”この言葉を発したようなこのシーン。弥彦の抱える切なさが伝わってくる。

 四三と弥彦が大日本体育協会で正式に顔を合わせたとき、笑顔で握手を求めた弥彦とは対照的に、四三は治五郎と接するときに似た緊張感をもって彼と接する。しかし四三は、オリンピック出場に向けて食事マナーや英会話などを必死に学ぶ中で弥彦と打ち解けていったのだろう。暗室で弥彦の会話した際には、共にオリンピックに出場する同志に対する距離感に変わっていた。家族との関係や経済状況など、さまざまなものが対照的な2人だが、日本人初のオリンピック選手として盟友となる2人でもある。今後彼らはオリンピック出場に向けて長い旅路に出る。その旅路でどのように関係を深めていくかが気になるところだ。

※古舘寛治の「舘」の字は、正しくは、外字の「(※舎官)」

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45 
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45 
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ/綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花/ 森山未來、神木隆之介、橋本愛/杉本哲太、竹野内豊、 大竹しのぶ、役所広司
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/
写真提供=NHK

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