5年ぶりの珍事「実写日本映画トップ4独占」と、優先されるテレビ局映画の都合

優先されるテレビ局映画の都合

 『七つの会議』の池井戸潤原作、福澤克雄監督という同じ組み合わせの作品としては、昨年12月までTBSの連続ドラマとして『下町ロケット2』が放送されていた。同作は2015年放送の『下町ロケット』ファーストシリーズほどの高視聴率を記録することはなかったが、年末の集中的な再放送に続けて2019年1月2日には特別編(こちらの演出も福澤克雄だった)を放送するなど、TBSが社運を賭けた作品であったことは明白。『七つの会議』の公開時期は、その話題性を引き継ぐことを想定して、2月1日に設定されたのではないかと推測できる。

 『マスカレード・ホテル』のプロモーションも、フジテレビが年末から年明けにかけて『HERO』をはじめとする木村拓哉主演ドラマを連続で再放送してバックアップ。さらに、11月中旬から12月中旬にかけては翌年1月放送分も含めてテレビのバラエティ番組の収録がまとめておこなわれるため、番宣のために木村拓哉を集中的に稼働させやすかったという事情も見え隠れしている。万全の体制で局が作品をプロモーションする上では、特番の放送が多い12月に公開するよりも、1月に公開する方が効果的だったはずだ。

 いずれの作品もこうして結果を残したわけで、公開時期の設定は間違いではなかった。『ボヘミアン・ラプソディ』の異例のメガヒットがようやく落ち着いてからの公開になったという点では、そこに幸運も重なったと言える。しかし、一方で、映画会社とテレビ局の力関係が浮き彫りになったのではないか。90年代以降、実写日本映画の興行を支えてきたのはテレビ局製作による「連続ドラマの映画版」だった。「連続ドラマの映画版」から「テレビ局主導のオリジナル企画」へとかたちは変われど、キャスティングから演出の方向性や作品の質も含めて、その構造自体は現在も大して変わりはない。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。Twitter

■公開情報
『七つの会議』
全国東宝系にて公開中
出演:野村萬斎、香川照之、及川光博、片岡愛之助、音尾琢真、藤森慎吾、朝倉あき、岡田浩暉、木下ほうか、吉田羊、土屋太鳳、小泉孝太郎、溝端淳平、春風亭昇太、立川談春、勝村政信、世良公則、鹿賀丈史、橋爪功、北大路欣也
原作:池井戸潤『七つの会議』(集英社文庫刊)
監督:福澤克雄
脚本:丑尾健太郎、李正美
配給:東宝
(c)2019映画「七つの会議」製作委員会
公式サイト:http://nanakai-movie.jp/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「興行成績一刀両断」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる