『蜘蛛の巣を払う女』にみる、『ミレニアム』映画シリーズの真価

『蜘蛛の巣を払う女』の背景と特徴

 人気の高いリスベットの物語を再度映画化するために、予算を推定で約半分ほどに削って、キャストを一新し、監督を『ドント・ブリーズ』(2016年)で注目を集めた新鋭・フェデ・アルバレス監督に託すことで、より地に足の着いた映画企画として刷新されたのが、本作『蜘蛛の巣を払う女』である。原作でいうと、第2作、第3作を飛び越えた、第4作目の映画化だ。この原作は、オリジナルの原作者の急死にともなって交代された、新しい原作者による続編でもある。

 ここで活かされるのは、犯罪組織との敵対関係を描くことで生まれる、アクション作品としての魅力だ。この新しいテイストが支持されれば、さらなる続編はもちろん、『007』シリーズのように、今後は映画独自の展開も可能となってくる。よって、『ドラゴン・タトゥーの女』同様、最終的な興行の結果によって、その後の制作が検討されることになるだろう。

 新しくリスベットを演じるのはクレア・フォイ。衣装は幾分おとなしくなり、背中のドラゴン・タトゥーも地味に感じられる。フォイ自身も柔和な印象で、エキセントリックな演技も今回はそれほど見られないため、事前に『ドラゴン・タトゥーの女』を見ている観客にとって、衝撃も鮮烈さも薄いことは確かだ。しかし、そのぶん多くの観客にとって感情移入がしやすくなり、アクション場面も撮影しやすくなっている。また、本作ではセーフハウスでのリスベットのプライベートな様子や、逃亡生活が描写されるため、奇抜な格好をさせると緊迫感が削がれてしまうという事情もあったのだろう。

 そのインパクトを補完しようとするように、本作で初めて登場するのが、リスベットと16年前に別れた双子の姉妹、カミラ(シルヴィア・フークス)である。本作の冒頭で幻想的に表現されていたように、少女時代のリスベットは犯罪組織のトップだった父親から逃れ、カミラは父親のもとに残った。そして父親の死後はカミラが犯罪組織を受け継ぐことになる。

 16年後に再会した二人は、世界中の核兵器発射を制御するシステムに侵入することができるという危険なコンピューター・プログラムを奪い合い、まるでチェスで一手一手を進めていくように、互いの戦力や能力を最大限に使いながら、熾烈な頭脳戦を繰り広げていく。

 スケールが大きく深刻な話だが、二人の確執というのはとどのつまり、田舎の家を出て都会に旅立った者と、家業を継いで実家に暮らしている者とのいがみ合いという、わりと身近によくある構図だともいえる。本作ではこの二人をそれぞれのイメージカラーである、黒と赤の色で対比させ、真っ白い一面の雪景色のなかに配置させる。この対照的な二つの存在を象徴的に美しく描くことが、本作のねらいであろう。

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