『リズと青い鳥』『若おかみは小学生!』『ガルパン』……傑作を生み出す脚本家・吉田玲子とは

傑作を作り続ける脚本家・吉田玲子とは

脚本家・吉田玲子はラジオドラマから始まった

 吉田玲子のキャリアは、ラジオドラマから始まった。自ら応募したラジオドラマのシナリオコンクールに入選し、次々とオンエアされている。

 3本の入選作の1本『悪役志願』は、「月刊ドラマ」1993年1月号で読むことができる。もう2本『ぼくと海賊の夏』と『蟻の穴』は、「月刊シナリオ教室」1993年3月号に掲載されている。すべて読んでみたが、今や閲覧する機会も少ないと思うので簡単にではあるが紹介したい。

「月刊シナリオ教室」1993年3月号(撮影=杉本穂高)

 創作ラジオドラマ脚本懸賞で入選を果たした『悪役志願』は女子プロレスの悪役レスラーの物語だ。体格が大きいことがコンプレックスだった優子は、母の反対を押し切り女子プロの門をたたくが、華やかなルックスを持つ同期のりかを売り出すため、悪役レスラーになることを勧められる。ヤジを浴びる悪役というポジションに葛藤しながらも、魅力ある悪はとても人間的であることに気づき、自分なりの悪役のあり方を見出し、遂にはスター選手となる姿を描いている。

 アニメ作品で吉田玲子の存在を知る者には、彼女が女子プロの悪役の物語を書いていることを意外に感じるかもしれない。しかし物語は主人公の同期・りかとの友情と複雑な想いを描いており、主人公の前向きな姿勢など昨今の吉田の諸作品にも通じるものがある。

 NHK中・四国ラジオコンクール佳作の『ぼくと海賊の夏』は、広島の因島に暮らす10歳の少年とタイムスリップしてしまった村上水軍の侍、源兵衛のひと夏の交流を描いた作品だ。コンクールの3年ほど前に広島に帰省した際に、村上水軍の資料を見て海賊の話を書きたいと思って完成させた作品だそうだ。

 いじめられっ子の少年は、源兵衛の教えを受けて成長し、源兵衛は過去の行いのせいでかけられた呪いを、溺れる女性を助けることで解放され、2人は別れてゆく。ラジオドラマは音とセリフだけで表現するものだが、夏の海沿いの街の情景をありありと浮かび上がらせ、ひと夏の少年の成長がさわやかに描いている。

 BKラジオドラマ脚本懸賞佳作『蟻の穴』は、3本の中で最も意外性が強い。ある核家族の家庭が50代の家政婦、加代子を雇う。加代子は朗らかな性格で家事も完璧にこなし、家族からの信頼を勝ち取る。しかし彼女は、家族に嘘を流し、父と母を家から追い出し、子どもたちを懐柔。遂には家を乗っ取ってしまうという。物語は7歳の息子・聡のナレーションで進行するのだが、ラストで

「加代子さんは庭へ出て、ボクたちの家を仰ぎ見た。そして、今までに見たことのないゾクッとするような不気味な笑顔を浮かべた」(「月刊シナリオ教室」1993年3月号 P.46)

と言いつつ、

「加代子さんなら、どんなにテストの点数が悪くても叱らないし、好きなだけお菓子を食べさせてくれる」(同誌P.46)

と、その状態に満足してしまっている。そして、

「本当に、ボクとユリはブクブクと太り続ける一方だ」(同誌P.46)

というナレーションで幕を閉じるというブラックなユーモアに溢れた作品だ。

 吉田玲子について明るい作風をイメージする人が多いと思うが、こうした人間のダークサイドを描くタイプの作品は珍しい。同誌の寄稿文で「市原悦子さんに読んで欲しい」と思いながら書いたと述べている。

 いずれの3作品とも、非常に読みやすく、スッと情景が思い浮かぶし、人物の感情の筋立ても整理されている。下手なシナリオを読むと、情景が浮かんでくるまでに時間がかかるのだが、この3作品はすべて、文字とともに画が浮かんでくるし、キャラの感情変化のポイントもわかりやすい。この頃からすでに職人的な構成力の上手さを備えていたことがよくわかる。

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