『アリー/ スター誕生』は“本格派”の映画に 古い物語を現代にフィットさせた新たな解釈

『アリー/ スター誕生』の新たな解釈

 冒頭でジャックが歌う「ブラック・アイズ」が、証言台に立つことと自己を表現することを重ねていたように、自分の心を飾らずにさらけ出すジャックの魂が込められた歌は、後の世代の心をも動かし続けている。彼の歌が歌い継がれていく限り、ジャックは真のアーティストであり輝く星なのである。そしてジャックは、アリーにもそうなってほしいと思っていたはずなのだ。

 アルコール依存症を克服したジャックは、いくつもの歌を書き続けていた。それは、自分の才能を発揮し続けたいと考えるのはもちろん、アリーに自分の魂を継承するためだったように感じられる。ジャックというスターが、彼の父親と兄の才能を受け継ぐことによってかたちづくられたように。

 本作『アリー/ スター誕生』が、いままでのリメイク元となった作品があったからこそ存在できるのと同様、本作で真のスターが生まれるラストの数秒間を支えたのは、ジャックの愛情と献身に他ならない。それが分かるのは、最後にアリーが歌い上げる「アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン」の歌詞にある、「他の人を愛することはもうできない」 という内容である。

 初めは、その歌詞はアリーからジャックに捧げられたものだと思えるように演出されているが、数秒だけ挿入されるカットによって、じつはその歌詞は、ジャックからアリーに捧げられたものだということが分かる。兄が自分にしてくれたように、アリーを愛し、アリーに自分の全てを捧げようとする、正直な気持ちを歌ったジャックからのメッセージだったのだ。

 そして、その心からのメッセージを、アリーはジャックに対する自分の愛情として新たに解釈し直し、また歌い返している。飾らない心からの気持ちを歌に乗せたことで、アリーもまた本来の自分らしい表現に立ち戻り、ついにジャックの到達した場所に登ることができたのである。

 このシーンでは、そういった流れをセリフでなく歌唱するカットだけで表現し、多くの観客を感動の渦に巻き込むことに成功している。本作は、このような表現によって男女の愛情を描いたものというより、スターという存在をめぐる、より現代的な人間同士の繋がりの物語に昇華することができたといえよう。これは賞賛に値する仕事である。来るアカデミー賞で作品賞を受賞したとしても、全く恥ずかしくない内容ではないだろうか。

 ブラッドリー・クーパーとともに、メインでこの脚本を書いたのは、『フォレスト・ガンプ/一期一会』、『ミュンヘン』を手がけたエリック・ロスだ。さらに撮影は『アイアンマン』や『ブラック・スワン』など、スケール感のある映像と、個人的な視点からのアーティスティックな映像を両方撮ることのできるマシュー・リバティークが務めている。才能あるスタッフによって、本作の表現が、より高いレベルに到達したことは間違いない。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『アリー/ スター誕生』
全国公開中
監督・製作:ブラッドリー・クーパー
出演:レディー・ガガ、ブラッドリー・クーパー
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/starisborn/

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