『アリー/ スター誕生』初登場6位 大ヒットスタートを切れなかった3つの誤算

『アリー/ スター誕生』3つの誤算

 2つめは、「歌って、恋して、傷ついてーー私は生まれ変わる」というコピーをはじめとする日本での宣伝が、本作を「音楽映画」なのか「ラブストーリー」なのか「ガガのスター映画」なのか曖昧にしてしまったのではないかということ。実際に『アリー/ スター誕生』は様々な側面を持った作品で、個人的にはブラッドリー・クーパー初監督作として大きな驚きと喜びをもたらしてくれた作品なのだが、極端に単純化した宣伝が効果を生むとされる日本で作品を広めるにあたっては、「音楽映画」か「ラブストーリー」のいずれか一つに焦点を当てるべきだったのではないか。ちなみに、日本の宣伝では、本作が『スタア誕生』の3回目のリメイク作品であることには極力触れないよう対策がとられていた。それが興行面に与えた影響を推し量るのは難しいが、少なくとも作品の成り立ちや映画の歴史に対しては不誠実な姿勢であったと指摘しておきたい。

 そして、3つめの理由は2つめの理由ともリンクするのだが、公開時期が『ボヘミアン・ラプソディ』というモンスター級のメガヒットを記録中の「音楽映画」と重なってしまったことだ。これは単純に「音楽映画被り」という問題だけではなく、実際にスクリーン数の違い以上に上映館のキャパシティにおいて、公開7週目に入った『ボヘミアン・ラプソディ』がいまだ大きなスクリーンを占有している状況が続いていて、『アリー/ スター誕生』が割りを食ったかたちとなってしまった。映画の興行分析は、言うまでもなく結果論である。「あとからだったらなんでも言える」と言われれば、返す言葉はない。しかし、『アリー/ スター誕生』が全米公開とほぼ同時に日本でも公開されていれば(つまり、全米公開の翌週に日本公開された『ボヘミアン・ラプソディ』の1か月前に公開されていれば)、状況は少し変わっていたのではないかと思わずにはいられない。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。Twitter

■公開情報
『アリー/ スター誕生』
全国公開中
監督・製作:ブラッドリー・クーパー
出演:レディー・ガガ、ブラッドリー・クーパー
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/starisborn/

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