年末企画:杉本穂高の「2018年 年間ベストアニメTOP10」 脚本家・吉田玲子の年として記憶される

杉本穂高の「2018年アニメTOP10」

『紅き大魚の伝説』

成長著しい中国アニメの実力を示した作品。日本アニメの模倣だけでは決してない、中国オリジナルの感性が映像に定着している。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

TVアニメであんなに美しいものが観られるとは思わなかった。言葉が氾濫する現代に、シンプルな言葉の美しさを観る者に刻みつけた。

『ルパン三世 PART5』

歴代TVシリーズでも最高傑作ではないか。デジタル時代の新しいルパンのあり方と、これまでのルパンらしさが高レベルで融合した傑作。不二子とルパンの関係の決着の付け方も最高。こういう大人のドラマがもっと観たい。

『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』

発展著しいアニメーション技術も、手法そのものに驚く機会は少なくなったが、これは久々に手法に唸った。原画枚数を減らさずにデッサン量を減らして、カットが連続することで初めて絵が浮かび上がる。映像でしか描けない絵のあり方だ。

『宇宙よりも遠い場所』

昨年の『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』でも力を発揮した、いしづかあつこ監督の才能が花開いた記念すべき作品。京都アニメーションの山田尚子のようにマッドハウスの未来のエースになれる逸材だと思っている。吉田玲子に引けを取らない名脚本家、花田十輝の仕事も素晴らしかった。2人のコンビ作『ノーゲーム・ノーライフ』もぜひ観てほしい。

『さよならの朝に約束の花をかざろう』

脚本家・岡田麿里の見事な監督デビュー作となった。主人公マキアが赤ん坊のエリアルを救い出すシーンが目に焼き付いて忘れられない。死んでも我が子を守る母の愛と、それゆえに死後硬直して母の手に囚われ身動きとれない赤ん坊。母の愛と呪いが同時に描かれていた。硬直した手を強引に引き剥がすのは、母の愛を知らずに育ったマキア。この人でなければ描写できない強烈なシーンだった。

『生きのびるために』

Netflixはこういう作品を多くの人に届けるためにあると個人的には思っている。タリバン政権下、男の付き添いなしでは外出もできない女性たち、不当逮捕された父を救うために、男装して苦難の旅を乗り越える少女の物語。過酷な現実を生きるために少女は物語を思い出す。人はなぜ物語を必要とするのか、その答えがこの映画にある。

『DEVILMAN crybaby』

Netflixはこの1本で日本のアニメファンに大きな存在感を示すことに成功した。現在のTVでこの企画は成立しないだろう。躊躇ない暴力描写はこの作品のテーマを描くために不可欠。湯浅政明監督は昨年から続く好調をキープしているようで何よりだ。来年の新作映画も楽しみ。

『若おかみは小学生!』

この監督とこのスタッフなら傑作は当然、と終わってみれば思うのだが、鑑賞前にはここまですごい作品だとは予想していなかった。本作については詳しいレビュー(少女の通過儀礼から無我の境地までも描く 『若おかみは小学生!』がもたらす極上の映画体験)を書いたのでそちらを参照してほしい。

『リズと青い鳥』

まるで即興芝居を観たような気分になった。アニメーションなので即興なはずはないので、狐につままれたような気になったが、たしかに即興芝居のように軽やかで変幻自在の芝居だった。山田尚子はアニメ界のロベール・ブレッソンだ。

 その他、惜しくも圏外になった作品を少し挙げておく。

 花田十輝の脚本力がすごい『シュタインズ・ゲート ゼロ』、バンクがかっこよく、ウテナを思い出した『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』、わからないことがあるって素晴らしい『ペンギン・ハイウェイ』、ドラァグクイーン×魔法少女という発想の勝利『スーパー・ドラァグ』、ひたすら勉強になる『はたらく細胞』、毎週爆笑してる、ずっと放送が続いてほしい『宇宙戦艦ティラミス』、上野に住みたくなる『三ツ星カラーズ』etc……。

 今年もたくさんの素晴らしい作品に出会えた。2019年も良い作品に巡り会えますように。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■リリース情報
『リズと青い鳥』
Blu-ray&DVD発売中
【台本付数量限定版 Blu-ray】
8,800円+税
【Blu-ray】
7,800円+税
【DVD】
6,800円+税
原作:武田綾乃(宝島社文庫『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』)
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
音楽:牛尾憲輔
キャラクターデザイン:西屋太志
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:石田奈央美
楽器設定:髙橋博行
撮影監督:髙尾一也
3D監督:梅津哲郎
音響監督:鶴岡陽太
音楽制作:ランティス
音楽制作協力:洗足学園音楽大学
吹奏楽監修:大和田雅洋
アニメーション制作:京都アニメーション
発売元:京都アニメーション・『響け!』製作委員会
販売元:ポニーキャニオン
(c)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
公式サイト:http://liz-bluebird.com/

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