ネットの向こうには怪物しかいないのか? 真木よう子主演『炎上弁護人』が突きつける“人間の本質”

『炎上弁護人』井上由美子が描くネットの向こう

 まず、特筆すべきは、信頼できるスタッフである。『お母さん、娘をやめていいですか?』『この声をきみに』(共にNHK総合)という昨年の実に優れたドラマ2作品をプロデュース・演出した笠浦友愛が、『お母さん、娘をやめていいですか?』脚本の井上由美子と再びタッグを組んだ。

 『きらきらひかる』『昼顔』『白い巨塔』(共にフジテレビ系)、『緊急取調室』(テレビ朝日系)など、井上由美子の手がけたドラマはジャンルを問わず多岐に渡るが、いつもその根底に感じるのは、深く優しい、人間を見る目である。

 10月期、井上は2本のドラマ脚本を手がけた。テレビ東京ドラマBiz枠の『ハラスメントゲーム』と『炎上弁護人』である。『ハラスメントゲーム』においても、何事も「ハラスメント」と言われかねないリスクの多い現代社会を、糾弾されることを恐れず、歯に衣着せぬ言葉で人と正面から向き合う50代のコンプライアンス室長・秋津(唐沢寿明)の視点から描いていた。様々なタイプのハラスメント事案の奥に潜む、働く人たちそれぞれの思いを紡ぎ出したのだ。失言や失敗が許されない窮屈な時代、それは『ハラスメントゲーム』が描いた会社においても、『炎上弁護人』が描くネットの世界においても言えることだ。それでもその奥にいる人々自体はいつの時代も変わらず同じように、悩んだり苦しんだりしながら必死で生きている。そのことを考えさせてくれるのが、井上由美子脚本と、彼女の描く登場人物たちなのではないか。

 仲里依紗演じるフォロワー20万人の主婦「マザー・テレ美」こと、ネット炎上に遭い、弁護士・渡会に救いを求めにくる依頼人・朋美は、ネット上で膨らんでいく虚像とは裏腹に、ごく普通の孤独な主婦だ。実に軽薄な若者といった感じの演技が新境地の岩田剛典演じるくせ者WEB記者・馬場の、さわやか過ぎる笑顔が凍りつく瞬間は必見である。渡会と朋美が戦うマンション業者の女社長・小柳ルミ子とその代理人のやり手弁護士を演じる小澤征悦も実にいいが、片桐はいりの好演がなにより光る。

 ネットは「共感」メディアだ。「共感」は時に悪用され、偽物の真実を作り上げる。それでも。真木よう子が真っ直ぐ見つめるその先に何があるのかを、ぜひ確かめていただきたい。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『炎上弁護人』
12月15日(土)NHK総合 21:00〜22:13
12月12日(水)BS4K 19:00〜20:13
出演:真木よう子、仲里依紗、岩田剛典、岡山天音、片桐はいり、小柳ルミ子、宇崎竜童、小澤征悦ほか
作:井上由美子
音楽:未知瑠
製作総括:高橋練
演出:笠浦友愛
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/dodra/enjoh/

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