正月映画にホラーは無謀だった!? 『来る』に観客が来なかった理由

『来る』に観客が来なかった理由

 ホラー映画ファンとして心外なのは、この結果を受けて「やっぱりホラー映画は当たらない」という風評が広がることだ。原作はホラー小説で、今回の映画も一応「ホラー・エンターテインメント作品」という打ち出しになってはいるものの、厳密に言うと『来る』はホラー映画ではないというのが、自分の見解だ。ホラー映画の真骨頂は映画館という環境も込みの暗闇の怖さと、緩急を自在に操る演出の技法にある。その点、中島哲也作品は、CMディレクター出身監督らしい隅から隅までピントが合った明度の高い作品のルックと、忙しないカット割りと編集が持ち味(それ自体は監督の作家性であって何も悪いことではない)。今回、ホラー小説の原作を映画化するにあたっても、その強固な作家性は一貫している。つまり、今回本当の意味で相性が悪かったのは、「正月映画とホラー映画」ではなくて「中島哲也監督とホラー映画」なのだと思う。『来る』への評価は、その「中島哲也監督とホラー映画」のミスマッチを楽しめるかどうかにかかっている。逆に、監督やキャストに興味があっても「怖い映画は苦手だから」と本作を敬遠している人は、是非劇場に。全然怖くないから大丈夫。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」ほかで批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)、2018年11月28日発売。Twitter

■公開情報
『来る』
全国公開中
監督・脚本:中島哲也
企画・プロデュース:川村元気
原作:澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(角川ホラー文庫刊)
出演: 岡田准一、黒木華、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡、青木崇高、柴田理恵、太賀、志田愛珠、蜷川みほ、伊集院光、石田えり
製作プロダクション:東宝映画、ギークサイト
配給:東宝
(c)2018「来る」製作委員会
公式サイト:http://kuru-movie.jp/

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