年末企画:麦倉正樹の「2018年 年間ベストドラマTOP10」 “多様性”をめぐる問題と“脱構築”の動き

 “多様性”をめぐる問題は、ステレオタイプには陥らない新しい感性をもったドラマをーーという“脱構築”の動きとも関連しているのだろう。とりわけ、名前と実績のある脚本家たちにとっては。その筆頭が、北川悦吏子の『半分、青い。』(NHK)になるのだろうけど、野島伸司の『高嶺の花』(日本テレビ)同様、個人的にはあまり成功していたようには思えなかった。「結局、何の話を見せられたのだろう?」。そんな素朴な疑問が、最後に残ってしまったから。坂元裕二の『anone』、野木亜紀子の『獣になれない私たち』にも、同じような“脱構築”の意識を強く感じた。この2つ関しては、役者陣の好演もあって、心奪われるシーンも数多くあったが、やはり全体としては、何か釈然としないもどかしさが残ってしまった。無論、両者とも実に見応えのあるドラマではあったけれど、もし仮にそれが成立しているのならば、脚本よりもまずは役者の好演を称賛すべきではないだろうか。

 その一方で、『dele』や『中学聖日記』は、作劇の構造によって“脱構築”するというよりも、むしろ役者の魅力を十全に活かしながら、丁寧な演出とカメラワークによって既存の枠組みを打破しようする作り手たちの野心が感じられ、個人的には、むしろこれらのドラマのほうに好感を持った。そして、主題歌や小ネタの数々が若干のノイズとなっているのが少し気になったけれど、主演の高橋一生をはじめ、個々の役者の魅力と、“多様性”に関する明確なメッセージ性が胸に響いた『僕らは奇跡でできている』は、もっと多くの人に観られてしかるべきドラマだったと思い、最後に加えさせてもらった。

 ちなみに、海外ドラマに目を向けると、『13の理由』、『ナルコス』など人気作品の新シーズンが、いずれも期待値を超えるものではなかったの対し、『オザークへようこそ』S2と『マーベラス・ミセス・メイゼル』S2は、いずれも期待を上回る秀逸なシーズンだったように思う。そして、忘れてはならないのは、やはりドナルド・グローヴァーの『アトランタ』だ。毎回約30分程度の短いスケッチでありながら、既存の枠組みには決して収まらないその先鋭性に、とにかく衝撃を受けた。真の“脱構築”とは、こういうものなのかもしれない。とりわけ、S2E6「テディ・パーキンス」は、今年最も衝撃を受けたエピソードだったので、気になる方は是非チェックしていただきたい。

【TOP10で取り上げた作品に関連するレビュー】
清原果耶のモノローグが心に沁みる 『透明なゆりかご』が描いた産婦人科の“光と影”
志尊淳主演ドラマ『女子的生活』を見逃すな! 重要なのは“性別”ではなく、“生き方”そのもの
秋ドラマのポイントは“獣”? 『けもなれ』『大恋愛』『中学聖日記』女性脚本家たちの狙い

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる