バカリズム、ドラマ脚本家として大成 日テレ朝ドラ『生田家の朝』にみる観察眼の鋭さ

バカリズム、“ドラマ脚本家”として大成

 このように本作は、家族のあるあるネタを展開しながら、時々、変化球を入れるという緩急で見せていく。この辺りは実にバカリズムらしいドラマ運びではないかと思う。バカリズム(升野 英知)は、お笑い芸人や俳優として活躍する一方で、テレビドラマの脚本も執筆している。どれも高い評価を受けているが、特に昨年放送された『住住』(日本テレビ系)と『架空OL日記』(同)は、演出を担当した住田崇監督の映像と淡々とした会話劇が絶妙で、ドラマのリアリティを大きく更新したと言える傑作だった。

 バカリズムの面白さは大きく分けて二つ。観察眼の鋭さと、アイデアの面白さだ。例えば『架空OL日記』は升野が普通のOLのふりをして書いていたBLOGを、ドラマ化したもののだが、ドラマ版では升野自身が主人公のOLを演じることで、BLOGの面白さ(升野がOLのふりをして書いていることの面白さと不気味さ)を体現していた。広末涼子たち人気女優が、もしも今と違う人生を送っていたらという設定で書かれた『かもしれない女優たち』(フジテレビ系)も同様で、アイデアの着眼点と精密な観察眼によって彼のドラマは成り立っている。

 この『生田家の朝』も、日本テレビで朝ドラを放送し、しかも本家の朝ドラ(NHK朝の連続テレビ小説)が始まる前に放送されているという形態こそが、面白さの核だと言えるだろう。だから全13話で終わってしまうのは勿体ない。せっかく朝ドラを意識した帯ドラマが民放で生まれたのだから、今後もこういう試みを続けて欲しい。その時は半年や一年といった長さにも挑戦して欲しい。なんなら生放送の回があってもいいのではないかと思う。

 以上のように本作は画期的な試みなのだが、唯一不満を上げるとすれば『住住』や『架空OL日記』で確立した映像と演技で、見たかったということだ。家族が見る朝の時間に放送される作品だから仕方のないことだが、もしも『架空OL日記』の演出で本作が放送されていたら、さぞかし不気味な異物感を醸し出していたことだろう。もちろん、朝からそれでは、ドラマとして駄目なのだが「藤代さんの魔法」のような話を見ていると、ついつい不気味なバカリズムを期待してしまうのだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『生田家の朝』
日本テレビ系にて『ZIP!』内 (月)〜(金)7:50頃〜全13回放送中
出演:ユースケ・サンタマリア、尾野真千子、関谷瑠紀、鳥越壮真
企画プロデュース・主題歌:福山雅治
脚本:バカリズム
演出:狩山俊輔
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:小田玲奈、森雅弘、鈴木香織(AXON)
制作協力: AXON
製作著作: 日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/asadora/

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