安藤サクラ×長谷川博己に社会人こそ共感? 『まんぷく』は人生論・組織論を学べる朝ドラに

『まんぷく』は人生論・組織論を学べる朝ドラに

 さて、萬平の職人気質と従業員への配慮問題が無事解決し、萬平を補う存在として真一(大谷亮平)が加わることでさらに会社は磐石になると思いきや、賑やかで楽しかった物語に、大きな災いが降りかかった。このドラマの魅力として、その巧みな演出も見逃してはならない。例えば、立花夫婦の人生の随所に登場するラーメンのエピソードや、咲(内田有紀)が夢枕に立つ時の満月なども印象的ではあるが、もう1つ、このドラマにおいて頻繁に登場するのが“魚”である。この魚の描写が、笑顔でいっぱいの物語に小さな翳りを見せていたことを、今回の事件が起きた時思い知らされることになった。

 まず、明るい鳥の絵を描いていた福子の姉・克子(松下奈緒)の夫で画家の忠彦(要潤)は、戦争後、色覚異常を患い一度は絵を描くことを諦めかけたものの、再び絵筆を握り、ひたすら魚の絵を描いていた。最初に書いた魚の絵を、娘のタカ(岸井ゆきの)は「きれい」と言ったが、藍色の、暗く澱んだ光を放つ魚たちの絵は、どうにも「きれい」だけではない不穏な空気を漂わせていた。それがまるで予兆だったかのように、第7週の忠彦は絵を描くことに囚われ、家族の心配をよそに寝食を忘れて没頭することになる。

 そして、「魚釣り」のエピソードだ。疎開先で、萬平が子供たちと共に魚獲りをし、苦労してとった成果は「たった一匹」。その後効率を重視した萬平は、電線を使って川に電気を流し、大量の魚を捕獲する。川に浮かび上がる大量のひっくり返った魚たち。

 次に第6週の泉大津に着いて早々、神部(瀬戸康史)は食糧確保のため釣りに出かけるが、釣れたのは「たった一匹」だった。その次の第7週では、たちばな塩業の男たちが全員で釣りに出かけ、一匹のタイを釣りあげる場面が描かれる。

 そして、従業員たちに仲間割れが発生した第9週では、自分たちの負担ばかり増え疲弊する塩作りメンバーの3人が、倉庫下に隠されていた手榴弾を見つけ、海にそれを投げ、一気に魚を捕獲する方法を考えつく。この時もまた、萬平が川に電流を流した時と同じように、やたら美しい海において、ひっくり返った魚が何匹も浮かび上がる。

 釣りのエピソードは2度繰り返された。福子と萬平が成し遂げる「インスタントラーメンの発明」の伏線として、彼らの人生の随所にラーメンを食べる場面が散りばめられているのと同じように、釣りと魚のエピソードは、静かに物語の影の伏線となっている。その影が次第に大きくなり、たちばな塩業を襲ってしまった。

 今度は大勢の仲間たちと共に、再び大きすぎるピンチに見舞われた萬平だが、福子は、彼らの窮地を救うことができるのだろうか。あの平穏な日々をもう一度と祈らずにはいられないが、心を落ち着けて、次の展開を待とう。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『まんぷく』
10月1日(月)〜2019年3月30日(土)【全151回】
作:福田靖
出演:安藤サクラ、長谷川博己、内田有紀、松下奈緒、要潤、大谷亮平/桐谷健太、片岡愛之助、橋本マナミ、松井玲奈、呉城久美、瀬戸康史、中尾明慶、橋爪功、松坂慶子ほか
語り:芦田愛菜
制作統括:真鍋斎
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/mampuku/

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