映画館の“良い席”ってどこだ? 座席選びから見える鑑賞者の人生観

映画館の“良い席”ってどこだ?

“良い席”、3つの判断基準

 まとめますと“良い席”には大きく3つの判断基準があると言えます。

音響的ベスト席

映像的ベスト席

混雑状況別ベスト席

 座席選択には、実はその方が映画鑑賞において「何を最重要視するか」という価値基準が反映されるというわけです。だから“良い席”の定義は難しい。

 これを受けてさらに、この座席選択という問題は、もうひとつ深く掘り下げることができるでしょう。どの座席を選ぶかは、映画というものに対する心理的態度の発現のひとつである、という推論です。もっと突き詰めれば、人生に対する態度の発露、とまで言えるかも知れません。

 映画を観るということは「他者の人生をのぞき見る」ことです。巧みな小説ならば、ほとんど完全な作品世界の一人称的把握感を感じさせることができるかも知れませんが、映画は例え『ハードコア』(イリヤ・ナイシュラー監督)のような完全主観映像で綴っても、他者を端から観ているという感覚が残り続けます。それはVRであっても完全に解消されることはありません。これは感覚や意識に関する高度に哲学的な問題をはらんでいると思われます。

 映画が他者の人生をのぞき見ることであるならば、座席位置とは、目の前で他者に何かしらの物事が起こっているときに“あなたがどこに立つ人間か”を露わにしているのではないでしょうか。寄りに寄って、主人公たる他者の世界に感覚ごと飛び込んで心情を共有しようとするのか、遠目にて観察して全体状況を把握しようとするのか。

 もちろんこれは現実空間での立ち位置とはまた異なるでしょう。前述のように僕は映画は最前列センターに座る派ですが、自分以外の人間の人生を鑑賞する座席位置は、たいてい後方サイドブロック端席です。こうして書いてみるとわかるのは、映画を鑑賞するという行為の喜びは、多分に自己愛的なもの、つまり、他者の人生物語を使って自己の心情を仮託することに快楽があるのではないかと思います。僕を含め濃いめの映画マニアにわりと前方席を好む人が多いのは、こんな理由があるのではないかと考えています。現実に怯えて、怒って、絶望して、自分自身の内面へのさらなる深酔いを求めるのです。

 最後はとても抽象的な話に帰結しましたが、たかが座席選びなれど、かくも底無き深淵であるということです(笑)。真の良い席というのは、その人の人生観に関わるのです。こういう分析を踏まえて、立川シネマシティのWeb予約システムにはさらに手を入れていきたいと考えています。具体的なアイデアは実はもうあるのですが、さてこれをどうやってプログラムに落とし込むべきか。

You ain’t heard nothin’ yet !(お楽しみはこれからだ)

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:http://cinemacity.co.jp/

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