新垣結衣の笑顔を封印した野木亜紀子の狙い 『獣になれない私たち』晶は“自由”のために戦うのか?

新垣結衣の笑顔を封印した野木亜紀子の狙い

 第3話で呉羽(菊池凛子)は、原節子と対極の存在として自由の女神を持ち出す。「自由の女神の顔ってけっこう険しい顔してる」。そして「自由を手にするには必要なんだよ、戦いが」と言い放つ。そう、晶の戦いは、みんなの“原節子”から「自由の女神」になるための戦いなのである。

 だが、戦おうとする晶の足を全力で引っ張る人たちがいる。京谷の元彼女・朱里(黒木華)、2人の部下・松任谷(伊藤沙莉)、上野(犬飼貴丈)という、 疲れたくないから、誰に迷惑をかけようが全力でぬるま湯につかっていたい人たちだ。彼らは戦おうと必死で頑張る晶に対して「あなたが戦わなければ、私たちの“平和”は保てる」と言う。晶は当惑して呟く。「私が贅沢なのかな」と。

 彼らは「自由を手にするための戦い」を認めない。「恋愛は贅沢品」、「なに贅沢言ってんの」。その“贅沢品”を持っている人、自分よりスキルが上の人のことを「私とは違う、キラキラした人」と言って線引きし、その妬みややっかみがあるのかないのか、「仕事をしない」あるいは「できない」と開き直ることで相手に依存する。

 彼女たちの何が怖いって、朱里は例外として、松任谷や上野は私たちの日常に普通にいそうな、ドラマの中においては「愛されキャラ」の立場にいる存在なのだ。むしろ気づいたら自分もこっち側の人間かもしれないとさえ思わせる。

 大人たちは厄介で、時に子供に戻りたくなる。晶と京谷は、ことあるごとに子供についての例え話をする。「ドラえもんいないんで、引き出し開けたって」、「生まれたままきれい」ではいられないから、仕事に恋愛に、ビールの泡のように雑味だらけの事情を抱えこみ、夜ごとクラフトビール店で憂さを晴らす。

 だが、視聴者側から見るとドラマの中のなによりの“雑味”はラーメン屋の店員・三郎(一ノ瀬ワタル)なのではないだろうか。晶や呉羽に涎をたらさんばかりに近づいてくる、決してかわいいとは言いづらい大型犬のような彼が、他の登場人物たちとは違う雑味一切なしの純粋性、ある種、晶と京谷が憧れる対象であるところの「子供」を示していたりするギャップが、このドラマのなによりのユニークさ、個性溢れる“雑味”なのかもしれない。

 第5話の終わり、ゲームのエンディングロールが霧散し、「welcome to the new world.」という言葉が浮かび上がった。つまりきっと今日からが第2章の始まり。ズルくて哀しくて、時に真っ直ぐすぎて笑えない、雑味だらけで面倒な大人たち。せめてクラフトビールのように上質な部分だけ、楽しめたら、飲み干してしまえればどんなにいいか。だがそれだけでは終われないのだろう。果たしてガッキー演じる晶は、“自由”のために再び戦うことができるのか。これは、生きづらい現代社会を生きる全ての女性のための物語である。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『獣になれない私たち』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治
協力プロデューサー:鈴木亜希乃
制作会社:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kemonare/

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