真の主人公は田中圭? 『スマホを落としただけなのに』で課される“愛の試練”

『スマホを落とし』で課される“愛の試練”

 しかし、スマホを落としたことからはじまるサスペンスフルな日常は、実際にありえそうなギリギリのラインをたどっていたのだが、サイコパスな犯人というフィクショナル存在が登場し、スリラーへと転換することによって、どうにも緊張感はゆるんでしまう。便利なスマホライフへの警鐘とも思えていた物語は、エンタメ的側面が強くなった途端、ただの“怖いお話”へと手触りが変わってしまうのだ。

 ところで、この映画には物語の核となる“柱”がいくつかある。「スマホ紛失からはじまる恐怖体験」、それと並行して描かれる「連続殺人事件の犯人を追う刑事・加賀谷学(千葉雄大)と毒島徹(原田泰造)の活躍」、そして、やがて明らかになる「麻美の過去の秘密と富田の対峙」である。重要なネタバレに抵触してしまう恐れがあるため詳述は控えるが、この主人公・麻美には、驚天動地の秘密があるのだ。

 ここで一つ大きなツッコミを入れたい。そもそも富田はスマホを“落とした”わけではなく、“忘れた”のだということだ。スマホは彼の意思によって、タクシーの座席の上に置かれている。それをうっかり忘れただけなのである。それも、麻美とのメッセージのやり取りの後にだ。彼はそれをきっかけに、恋人を危険な目に遭わせ、自らの身体を張って救い出し、彼女が隠していた過去を知る。プロポーズまでした最愛の人の大きな秘密を知って、彼はそれを受け入れられるのか。こうしてみると本作は、富田に課された試練の物語のようにも受け取れる。コミュニケーションツールであるスマホを自ら手放すことで、彼は恋人の真の姿と対峙する物語へと身を投じたのだ。表向きの主人公は麻美だが、富田からはじまり、また富田に回収されるこの物語の真の主人公は、彼にほかならないだろう。

 ネットやスマホが普及し、人間関係の希薄さが叫ばれて久しい昨今。そんな時代だからこそ、それらが生み出す恐怖と感動を観客に与えつつ、改めてコミュニケーションのあり方も問い直す、本作は実に痛快な作品である。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

■公開情報
『スマホを落としただけなのに』
全国東宝系にて公開中
出演:北川景子、千葉雄大、バカリズム、要潤、高橋メアリージュン、酒井健太、筧美和子、原田泰造、成田凌、田中圭
原作:志駕晃『スマホを落としただけなのに』(宝島社文庫)
監督:中田秀夫
主題歌:ポルカドットスティングレイ「ヒミツ」(UNIVERSAL SIGMA)
(c)2018映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会
公式サイト:http://sumaho-otoshita.jp/

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