『ヴェノム』大ヒットスタート! 「日本で当たるアメコミ映画」と「日本でコケるアメコミ映画」

『ヴェノム』大ヒットの理由は?

 例えば、同じマーベルコミック原作のスピンオフ的作品でも、世界中で大ヒットを記録し、批評家からも絶賛を浴びていた『LOGAN/ローガン』(2017年)は、日本の興行では大苦戦を強いられた。これは、X-MENシリーズへの国内外の人気の温度差に加えて、作品のテイストがシリアス&ハードであることが日本でも事前に周知されてしまったからではないだろうか。一方で、マーベルコミック原作の『デッドプール』シリーズ(2016年〜)、DCコミック原作の『スーサイド・スクワッド』(2016年)と、日本でも海外の水準から大きく隔たることのないヒットを記録した近年の作品は、共通してコメディ的なライトなテイストを持っていた。今回の『ヴェノム』も、本来はかなり邪悪でグロテスクなキャラクターであるヴェノムが、作品の中で意外なほど親しみやすく描かれていること、それが事前に伝わっていたことが功を奏したのではないだろうか。

 もう一つ、これは今回各国でヒットしている理由の一つでもあると推測できることだが、「続編疲れ」「ユニバース疲れ」「3時間近くある大長編疲れ」を起こしている観客の間で、本作のように2時間に満たない(実は長大なエンドロールとそれ以降のシークエンスを除くと、本作の本編は96分ほどだ)、既存作品とのリンクも直接的には持たない、独立した一本の作品として気軽に観られる作品がむしろ歓迎されるようになってきているのかもしれない。特に日本では、「ユニバース疲れ」を起こす以前に、ユニバースにどっぷりはまってる観客自体が海外と比べると少ないこともあり、今回マーベル・シネマティック・ユニバースに「梯子を外された」ことがマイナスどころかプラスに作用した可能性さえある。

 個人的には、特にマーベル作品に関してはユニバース作品ならではの作品世界の奥深さの虜となっている一人であり、どちらかというとシリアス&ハード路線のアメコミ映画の方に大興奮する体質(それとは別に今回の『ヴェノム』は大好きです)なので、少々複雑な想いもあるのだが……。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

■公開情報
『ヴェノム』
全国公開中
監督:ルーベン・フライシャー
脚本:スコット・ローゼンバーグ&ジェフ・ピンクナー、ケリー・マーセル、ウィル・ビール
出演:トム・ハーディ、ミシェル・ウィリアムズ、リズ・アーメッド、スコット・ヘイズ、リード・スコット
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(c)&TM 2018 MARVEL
公式サイト:http://www.venom-movie.jp/
公式Twitter:@VenomMovieJP/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「興行成績一刀両断」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる