小規模公開ながら大健闘 『search/サーチ』のような作品を日本映画界は目指すべき!?

『search/サーチ』が小規模公開ながら大健闘 

 今回『search』の監督はまだ27歳のインド系アメリカ人監督アニーシュ・チャガンティ。PC画面だけという縛りだらけの手法を逆手にとって極上のサスペンスを生み出すその天才的手腕には目を見張るものがあるが(今ごろチャガンティのもとには新しい企画が殺到しているはず)、実は本作のプロデューサー、ティムール・ベクマンベトフは前述した『アンフレンデッド』のプロデューサーでもあった。映画ファンならば、彼の名前に見覚えがある人も多いだろう。カザフスタン出身、ロシアの広告業界を経て映画界に入ったベクマンベトフは、ハリウッドに進出して『ウォンテッド』や『リンカーン 秘密の書』といったビッグバジェット作品を監督としても手がけてきた。そんなベクマンベトフが近年はプロデューサーに専念して、『アンフレッド』、アクション演出におけるPOV視点を極限まで追求した『ハードコア』、そしてこの『search』を手がけてきたといえば、彼が新しい才能と共にテクノロジーによって映画表現を更新していくことに、いかに意識的に取り組んでいるかがわかるだろう。

 プロデューサーはカザフスタン/ロシア系、監督はインド系、出演者のほとんどは韓国系と、アメリカ社会におけるマイノリティの才能たちが集結した『search』の成功は、今年の『クレイジー・リッチ!』の世界的大ヒット(日本では公開規模の小ささもあってヒットには到らなかったが)と並ぶ、2018年のハリウッドにおける注目すべきトピックだ。しかし、それらの作品に日本人の映画人や俳優の名前が見当たらないことには、一抹の寂しさを覚えずにはいられない。ちなみに傑作『リング』映画1作目の監督、中田秀夫の最新作『スマホを落としただけなのに』(11月2日公開)は、タイトル通りスマートフォンを落とすことの危険性や、その中の情報の脆弱性を描いた作品。そういう意味では、日本映画における「テクノロジーと映画」の系譜は現在も継続しているとも言えるが、テーマだけではなくテクノロジーによって映画的手法まで更新してみせた『search』を観た後だと、良くも悪くも「普通の面白い映画」にとどまっているのが歯痒い。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

■公開情報
『search/サーチ』
公開中
監督:アニーシュ・チャガンティ
製作:ティムール・ベクマンベトフ
脚本:アニーシュ・チャガンティ&セブ・オハニアン
出演:ジョン・チョー、デブラ・メッシング、ジョセフ・リー、ミシェル・ラー
配給:ソニー・ピクチャーズ
2018年/アメリカ映画/原題:Searching
公式サイト:search-movie.jp

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