『中学聖日記』は現代社会を生きる“大人”を揺さぶり続ける 剥がれだした有村架純の仮面

『中学聖日記』は“大人”を揺さぶり続ける

 このドラマはそういう、耳障りのいい言葉でまとめようとするとどうしてもはみださずにはいられない何かで溢れている。その象徴的な存在が、むいてもむいても次が出てくる“ラッキョウ”のように様々な要素を併せ持った、自身をバイセクシャルであると公言する、吉田羊演じる原口律というキャラクターである。

 町田啓太演じる聖の婚約者・勝太郎と上司・律との関係性を見ていると、1月に放送されたドラマ『女子的生活』(NHK総合)における、トランスジェンダーを演じた志尊淳と同級生・町田啓太の関係を思い出さずにはいられない。性別を越えた、何でも本音で語り合える居心地のいい関係。それは「原口さんは原口さんだから」と屈託ない笑顔を浮かべ、それだけで居心地のよい雰囲気を作りだすことができる、町田啓太の性質ゆえだろう。聖の前では“理想の彼氏”を演じている勝太郎は、律の前では悩みや迷いを全て吐露することができる。だが、この関係性が『女子的生活』の2人の関係と違うのは、バイセクシャルである彼女は、勝太郎を十分に恋愛対象として意識し得るところにある。

 このドラマの大人たちには、視聴者にはわかりづらい彼らの本音を語らせるための「相談役」とも言える存在がいる。勝太郎にとっての律であり、聖にとっての千鶴(友近)であり、晶の母親・愛子(夏川結衣)にとっての上布だ。勝太郎、聖、愛子は常にそれぞれのキャラクター(理想の恋人、教師、母親)に徹して、それぞれの「相談役」たちに本音を吐露し、自分でも気づいていないもう一つの姿を引き出されるわけである。

 逆に言えば、そうまでしないと表に出せないものを抱えて生きている大人たち、常に表の自分と裏の自分を持ち合わせ、取り繕わないとやっていけない大人たちの対極に、晶や岩崎(小野莉奈)はじめ爆発しそうな思春期のモヤモヤと恋愛感情をそのまま相手にぶつけ、周囲にも撒き散らしていく中学生たちがいる。彼らの衝動が、取り繕ってばかりの大人たちを揺さぶり、たきつける。

 3話の終盤、ようやく聖は自分の本音を語り始める。真面目な新任教師は、生徒に抱いてしまった恋心を吐露し、晶と同じく「どうかしている」自分に気づく。3話は、大人たちそれぞれが隠していた感情に火をつけてしまった回だった。聖は晶への思いに気づき、勝太郎が無理をしている律の手をとったことで、律は勝太郎にキスをした。そして晶の母親の心には、聖への疑惑の火がついた。それぞれが隠している本音を炙りだされつつあるこの先、自分を取り繕えなくなっていく彼らは、どう動くのだろう。

 今期ドラマのヒロインたちが、そろって周囲から与えられた自分のイメージ通りに生きることに固執し、取り繕い、疲弊していることからわかるように、現代の大人たちは何かしらの鎧を背負い、本音さえも吐露できない。そんな社会だからこそ、このドラマは、本能のままに行動する子供たちを対極に置き、現代社会を生きる、取り繕った大人たちに揺さぶりをかけるのかもしれない。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■公開情報
火曜ドラマ『中学聖日記』
TBS系にて、毎週火曜22:00~23:07放送
出演:有村架純、岡田健史、町田啓太、マキタスポーツ、夏木マリ、友近、吉田羊、夏川結衣、中山咲月
原作:かわかみじゅんこ『中学聖日記』(祥伝社フィールコミックス)
脚本:金子ありさ
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、坪井敏雄
主題歌:Uru「プロローグ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/chugakuseinikki_tbs/

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