ディズニースター版『glee』? 『ステータス・アップデート』はSNS時代のスクールカースト物語

ディズニースター版『glee/グリー』!?

ドラえもんのような秘密道具で学園のスターに?

 転校早々イジめられたカイルは、スマートフォン・ショップで魔法のSNSアプリ・ユニバースに出会う。このアプリのルールは以下の3点。

1. アプリにポストした文章が本当のことになる
2. 一度アプリに書いたことはなくならない
3. ただし設定を上書きすることはできる

 カイルは、このアプリを使ってまたたく間に学園のスターに君臨した。例えば、喧嘩をふっかけられた際は「ブルース・リーのようになる」とポストし、華麗に相手を倒す。アイスホッケー部のエースにイジめられた場合、ユニバースにひと言書き込んで天才ホッケー選手になりさえすれば、栄光の立場を奪える。まるで『ドラえもん』のような便利アイテムだが、野比のび太と同じく、カイルはこの道具で失敗も重ねることとなる。例えば、軽音部の入部テストで「自分はクラシックな歌唱技術を持つ」と投稿。一発合格は間違いないと目論むも、いざステージでカイルが歌ったものは超高音域のオペラ。たしかに「クラシックな歌唱技術をマスター」していたが、笑いものになってしまった。使い方にテクニックが要されるのも面白さだ。

 圧倒的なオペラ歌唱を披露してしまったカイルは、その失敗を活かし「ブルーノ・マーズのように歌って踊れるようになる」と投稿する。彼が食堂で「Locked Out of Heaven」を歌うシーンは、多幸感あふれる本作のハイライトのひとつだ。そして、このマーズのラブソングは、まさにカイルの境遇を表している。

「愛や奇跡なんてあまり信じてなかった 危険な恋にも興味なし
でも君を抱くとぶっとんじゃう 君と寝るたび生まれ変わる
君とのセックスはパラダイス 嘘じゃないさ
君と会うまでパラダイスを知らなかった 長い間ずっと知らなかった」

 カイルはこの曲を憧れのダニーに捧げる。ダニーもカイルに惹かれる。ゆえに、この歌詞が指す「君」とは彼女を指すように見える。しかし、映画の展開を考えると「君」の正体は違って見える。カイルをパラダイスに連れて行ったのは、ダニーでも彼自身の努力でもなく、ユニバースだ。大きな夢も希望も抱いていなかった本作の主人公は、魔法のアプリに投稿するたび生まれ変わり「素敵な恋人を持つスクールカースト頂点」というパラダイスを手に入れたのである。ちなみに、カイルが歌ったこのヒット曲は、このように続いていく。

「これからの人生すべてここで過ごしたい
でもそれは無理だね」

 カイルが手に入れたスクールカーストの頂点、そしてダニーの恋心は、魔法のアプリの賜物だ。他の生徒たちと比べれば“ズル”に等しい。パラダイスに到達した彼を待ち受ける未来は、このまま楽園というわけにはいかないだろう。前述した『ドラえもん』においても、便利なひみつ道具によっていい目を見たのび太がハッピーエンドで終わることはほぼない。

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