野木亜紀子が描くヒロインの共通点は“普通”? 『フェイクニュース』『けもなれ』から読み解く

野木亜紀子が描くヒロインの共通点

 しかし、晶はドラマの冒頭で、行きつけのバーで見かけたデザイナー兼モデルの橘呉羽(菊地凛子)の個性的でかっこいいハイヒールを見て「かっこいい」とつぶやく気持ちがある。結局、晶は会社でこき使われている状況に対して待遇改善を求める際、呉羽のような「かっこいい」ファッションで出勤することとなるのだ。

 ここまで、樹と晶のことを書いてきて、「なんだ、2人ともぜんぜん普通のキャラクターじゃないじゃん」と思った人もいるかもしれないが、それは半分当たっていて半分は間違っているのではないか。

『獣になれない私たち』(c)日本テレビ

 ドラマのヒロインは今までは、日常に疑問を感じて生きている人よりも、日常のさまざまなことを、笑顔で受け入れるキャラクターのほうが多かった。晶は常に笑顔で、先回りして人とのコミュニケーションがうまくいくように心がけているし、人に威圧感を感じさせないファッションも心掛けている。第1話の晶に限っては、これまでのドラマに求められていた「普通」のヒロイン像だ。

 そんな風に張り付いた笑顔に対して「気持ち悪い」というのが松田龍平演じる会計士、税理士の根元恒星である。恒星の態度は一見、冷たいようにも思えるが、尖ったファッションをしている呉羽を見て「あれ好きな男、そうそういなくない?」という晶の彼氏・京谷(田中圭)のことを思えば、無理して人に合わせる必要はないのに、なぜ自分を偽るのかと言っているようにも思えてくる。京谷は普段の態度をみた限りでは悪意のない人物である。それでも無意識のうちに、女性は自分自身のためにおしゃれをするのではなく、男性(自分)のために女性は着飾るものであるという考えをナチュラルに、しかもなんの罪もなく考えている人で、そんな人はけっこう多いのかもしれない

 かつてのヒロイン像は、京谷が望むような女性であり、それが「普通」と思っていた人にとっては、第1話の最後で社長に改善要求をつきつけた以降の晶のことや、常に周囲の反対を押し切ってまで正義感で動く樹のことを「ぜんぜん普通じゃない」と思うかもしれない。

 しかし、実際に世の中にいる女性たちが、常に自分の主体性を犠牲にして、日々笑顔でやりすごし、そして「すり減らし」ながらも、その状態を「普通」とは思っていないとしたら、樹や晶のように、その状況に対して、主体性を持って変えようともがいている人のほうが「普通」なのではないだろうか。

 樹も晶もちゃんと世の中や自分のおかれた普通ではない状況に対して疑問を持ち、それをなんとか表明して改善して普通に戻そうとしている。2人は経歴も職歴も、周囲とのコミュニケーションの仕方もまったく違うが、違和感を自分で飲み込むことで解決した気にならないということにおいては共通しているのではないだろうか。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■放送情報
『フェイクニュース』
NHK総合にて、10月20日(土)に前編、27日(土)に後編を21:00~21:49に放送  
作:野木亜紀子
音楽:牛尾憲輔
出演:北川景子、光石研、永山絢斗、矢本悠馬/新井浩文、岩松了、杉本哲太
演出:前編=堀切園健太郎、後編=佐々木善春
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:北野拓
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/dodra/fakenews/

『獣になれない私たち』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治
協力プロデューサー:鈴木亜希乃
制作会社:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kemonare/

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