本国より早く日本公開された『アンダー・ザ・シルバーレイク』 その危機一髪の裏事情

『アンダー・ザ・シルバーレイク』の裏事情

 デヴィッド・ロバート・ミッチェル新作に寄せられていた期待は日本だけのことではなく、その後、同作は今年のカンヌ映画祭のコンペティション作品にも選ばれることに。ご存知のように今年のパルムドールは是枝裕和監督『万引き家族』(こちらもギャガの製作・配給作品だが)が獲って、『アンダー・ザ・シルバーレイク』は無冠に終わったわけだが、雲行きが怪しくなったのはここからだ。当初、カンヌ映画祭の翌月、6月22日にアメリカで公開が予定されていた(カンヌでの評判を見込んだ時期でもあったのだろう)本作は、急遽公開延期に。海外の一部報道では、カンヌでの審査員や批評家からの不評(中には絶賛している評もあったが)を受けて、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督が再編集することになった(139分という上映時間の長さも問題視されていた)という情報や、再編集した作品の仕上がり次第によってはNetflixにセールスをかけることになるかもしれない(実際にNetflixオリジナル作品の中には、映画会社が一般公開を見合わせてNetflixに権利を譲渡した作品も少なくない)という情報も伝えられた。

 結論を言うと、デヴィッド・ロバート・ミッチェルは再編集の作業を拒否し(実際に作品を観た人ならわかるだろうが、もし『アンダー・ザ・シルバーレイク』が再編集されて上映時間が短くなっていたら、当初の作品コンセプトから大きく外れることになっていたはずだ)、作品はオリジナルから変更のないまま、8月以降ヨーロッパ各国で順次公開、アメリカでは当初の6月から半年延期されて12月公開に。そして、日本では当初のスケジュール通り10月に公開される運びとなった。そのような紆余曲折をふまえると、今回「ミニシアターランキング」という括りではあるものの、こうして日本で同作が高く支持されたことを一番喜んでいるのは、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督本人かもしれない。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

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■公開情報
『アンダー・ザ・シルバーレイク』
新宿バルト9ほかにて公開中
監督・脚本:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
出演:アンドリュー・ガーフィールド、ライリー・キーオほか
配給:ギャガ
原題:Under the Silver Lake/2018/アメリカ/カラー/シネスコ/5.1ch/字幕翻訳:松浦美奈
(c)2017 Under the LL Sea, LLC
公式サイト:gaga.ne.jp/underthesilverlake

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