初登場5位『クワイエット・プレイス』にみる、「ネタバレしてはいけない作品」の境界線

「ネタバレしてはいけない作品」の境界線

 映画におけるネタバレ問題。これは、別に今に始まった話ではなく、映画好きの間では昔から「どこまでがネタバレじゃなくて、どこからがネタバレか」という議論が盛んにおこなわれてきた。そこでは、かつての淀川長治氏の解説がしばしばそうであったように、「ネタバレをしても聞いた人(読んだ人)に作品を観たいと思わせるのが名解説」という見解もあり得る。もっとも、そこまで踏み込ためには、相当の評者としての実力と(多くの場合、知名度からくる)説得力が必要であり、わざわざその火中の栗を拾うような批評家は今はほとんどいないわけだが。

 また、前提として能動的にこちらが情報を受け取るテレビやラジオや新聞や雑誌と違って、ネットが普及してからは、不意にネタバレを目にしてしまう機会が飛躍的に増えたことも考えなくてはいけない。なにしろ、一般公開前はともかく、今では作品が公開された瞬間から、観客の誰もがネットの掲示板やソーシャル・メディアで情報を発信することができ、もしそこに悪意や悪戯が介在すれば、あっとういう間に拡散してしまうことも可能なのだ。

 どちらも、ある意味ではワン・アイデア映画(もちろん、それを長編作品として成り立たせるためには優れた演出や編集が不可欠なわけだが)と言える『カメラを止めるな!』と『クワイエット・プレイス』。両作品のヒットの大きな理由の一つとして、ネット情報が社会のインフラと化した現代ならではの、「絶対にネタバレしてはいけない」という心理的プレッシャーを受けた観客の反応が、結果的に作品をまだ観ていない人への期待感を煽ることになったことが挙げられるだろう。

 そういう意味では、昨年の『IT』の日本での「“それ”が見えたら、終わり。」というサブタイトルも秀逸だった。『クワイエット・プレイス』の宣伝コピーは「音を立てたら、即死。」。それは暗に「ネタバレしたら、即死。」という作品からのメッセージとしても機能している。1977年に日本で流行語にまでなった『サスペリア』の宣伝コピー「決して、ひとりでは見ないでください」の時代から、日本でのホラー映画のヒットには、優れた宣伝コピーが付き物なのだ。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

■公開情報
『クワイエット・プレイス』
全国公開中
監督・脚本・出演:ジョン・クラシンスキー
脚本:ブライアン・ウッズ、スコット・ベック
製作:マイケル・ベイ、アンドリュー・フォーム、ブラッド・フラ-
キャスト:エミリー・ブラント、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
公式サイト:https://quietplace.jp/

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