話題作となった『義母と娘のブルース』、賛否が別れた『高嶺の花』 夏ドラマに見るテレビドラマの形式

夏ドラマから考える“テレビドラマ”という形

賛否が別れた『高嶺の花』

『高嶺の花』(c)日本テレビ

 賛否が別れたのは野島伸司・脚本の『高嶺の花』(日本テレビ系)だろう。石原さとみが演じる華道の名家の令嬢・月島ももと、峯田和伸が演じる自転車店を営むぷーさんの格差恋愛という触れ込みは野島の出世作である『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)の現代版となるかと思われたが、石原さとみが演じる情緒不安定な女が、何があっても動じない峯田に癒やされるドラマとなっていた。恋愛パートの描き方はさすが野島という感じで見せるのだが、バックボーンとして描かれる華道の世界の見せ方がわかりづらく、そのせいでストーリーが迷走しているように見えた。

 野島はここ数年、dTVやFOD、Huluといった有料配信メディアで過激な恋愛ドラマを手がけており、全盛期の迫力が戻りつつあった。それだけに彼が地上波に戻ってくることの意味は大きかったが、今の民放地上波で書くよりは、制約のない配信ドラマで書くほうが、野島の才能を活かせるのではないかと感じた。

 これは野島だけの問題ではなく、今のテレビドラマ全体の構造的な問題だと言える。かつては民放地上波のドラマも玉石混交で、時々、斬新な映像と脚本で見せる先鋭的な作品が何本かあった。それらの多くは新鋭の若手クリエイターが手がけていたのだが、そういった作品の多くは深夜ドラマに移っていき、現在では深夜ドラマも保守化の傾向がある。

WEBドラマの“自由度の高さ”

『ミライさん』(c)LINE株式会社

 そんな中、新しい流れが生まれつつあるのはWEBドラマである。

 特にこの夏は『放課後ソーダ日和』と『アスアブ鈴木』というYouTube配信のドラマが面白かった。どちらも1話10分前後の作品で、出演女優の魅力で成立している小規模なドラマだが、逆に言うと、女優さえ魅力的ならば、何でもOKという自由度の高さを感じた。9月にはLINE NEWSで、のん主演のドラマ『ミライさん』の配信もはじまっており、こちらもYouTubeで観ることができる。

 一方、有料動画配信サイトのNetflixでは明石家さんま企画プロデュースの『Jimmy〜アホみたいなホンマの話~』や異色の青春ドラマ『宇宙を駆けるよだか』といった作品が作られており、Paraviでは堤幸彦演出の超能力ドラマ『SPEC』(TBS系)のスピンオフとなる『SPECサーガ黎明篇「サトリの恋」』がスタートしている。

 WEBドラマは、年々活性化していたが、この夏はオリジナリティの高い作品が多数登場した。もちろん完成度や作品の広がりにおいては、まだまだNHKや民放のプライムタイムのドラマの方が先を行っているが、あと数年で状況は反転するのではないかと感じる夏だった。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
火曜ドラマ『義母と娘のブルース』
出演:綾瀬はるか、竹野内豊、佐藤健、横溝菜帆、川村陽介、橋本真実、真凛、奥山佳恵、浅利陽介、浅野和之、麻生祐未
原作:『義母と娘のブルース』(ぶんか社刊)桜沢鈴
脚本:森下佳子
プロデュース:飯田和孝、大形美佑葵
演出:平川雄一朗、中前勇児
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/gibomusu_blues/

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