柄本佑が体現する、消えゆく夏の儚さ 『きみの鳥はうたえる』は新たな代表作に

柄本佑、『きみの鳥はうたえる』は代表作に

 本作で柄本が演じる主人公「僕」とは、ひょうひょうとしていて掴みどころがなく、思わず目で追いたくなる印象が柄本自身とどこか重なる。「僕」は愉快な男ではあるが、かといって底抜けに明るいわけでもない。冒頭の、「僕にはこの夏がいつまでも続くような気がした……」という素朴な彼の声で語られるナレーションには、この夏(=青春)は永遠のようであるが、いつ消えてしまうか分からないという儚さが漂っている。先述したキャリアを眺めてみれば、特定の人物像にとどまらず様々なキャラクターに柔軟に適応してきたということが分かる柄本だが、主演を務めた作品に注目すると、世に言われる“普通”からは少し外れた役どころが多い。本作の「僕」はごく平凡な青年であるものの、この系譜に位置づけることもできるだろう。

 夜な夜な友人たちと繰り出しては楽しむその姿は、物語上の「僕」と同じように柄本自身が楽しんでいるように思えるが、それでいてふとした時に見せる虚ろな表情は、観ているこちらを不安にもさせる。それはまるでこの映画がやがて終わる寂しさを、彼と私たちとで共有している感覚にも近い気がする。

 『素敵なダイナマイトスキャンダル』では、昭和のアンダーグラウンドカルチャーを牽引した稀代の雑誌編集長・末井昭の半生を、柄本はフルスロットルで、爆発するような青春として体現していたが、今作での「僕」はまるで線香花火のよう。派手ではなく静かだが、いつまでも見ていたい、たしかな強い輝きを放っているのだ。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

■公開情報
『きみの鳥はうたえる』
新宿武蔵野館、渋谷ユーロスペースほかにて公開中
出演:柄本佑、石橋静河、染谷将太、足立智充、山本亜依、柴田貴哉、水間ロン、OMSB、Hi’Spec、渡辺真起子、萩原聖人
脚本・監督:三宅唱
原作:佐藤泰志(『きみの鳥はうたえる』)
製作:函館シネマアイリス
制作:Pigdom
配給:コピアポア・フィルム、函館シネマアイリス
2018年/106分/2.35/カラー/5.1ch
(c)HAKODATE CINEMA IRIS
公式サイト:kiminotori.com

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