予想外のエンディングに 松本穂香主演『この世界の片隅に』が遺した“現代へと通じるメッセージ”

『この世界の片隅に』予想外のエンディングに

 そういった点では、これまでいまひとつ重要性が見えないでいた、佳代(榮倉奈々)を軸とした現代パートの存在が、ようやく実を結んだといえるかも知れない。節子(香川京子)というキャラクターを通すことで、戦時を知らない世代が多くを占めるようになった現代に向けて、二度と戦争の惨禍を繰り返してはならないという至極当然でなければならにメッセージを暗に伝える役割を果たしている。

 そして、現代の広島のシンボルである広島東洋カープのユニフォームを身にまとい、“ズムスタ”で応援している現代のすずの姿も然り(設定上、大正14年生まれのすずは、93歳ぐらいだろうか)。なかなか予想外のラストシーンに度肝を抜かれることにはなったが、前述の「できることは生きることだけ」という台詞を踏まえれば、それを明確に体現したエンディングといえるのではないだろうか。

 放送前には「夜の朝ドラ」を目指していると言われていた本ドラマ。主演の松本穂香を筆頭に、実際にNHKの朝ドラで注目を集めたキャストが揃い、さらにセットとロケーションを混在させて再現させた美術考証の巧さ。そして原作から守り継がれた淡々と紡がれていくストーリーテリングにも、その片鱗を強く感じさせた。

 その中でも、やはり最終話後半の原爆投下後の広島のシーンは、別格といってもいいほど、作り手の本気度合いを改めて感じさせるシーンであった。とりわけ節子が母親とともに投下直後の街をさまよい歩く場面での生々しさ。一度観たら忘れられないほど鮮烈で目を背けたくなるようなその描写を、しっかりと映し出す。この3ヶ月の放送期間中には様々な批判が浴びせられたとはいえ、このわずか数分のシーンだけでも『この世界の片隅に』を実写で描いた価値はあったのではないだろうか。

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■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■放送情報
日曜劇場『この世界の片隅に』
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊、『漫画アクション』連載)
脚本:岡田惠和
音楽:久石譲
演出:土井裕泰ほか
プロデュース:佐野亜裕美
出演:松本穂香、松坂桃李、村上虹郎、伊藤沙莉、土村芳、ドロンズ石本、久保田紗友、新井美羽、稲垣来泉、二階堂ふみ、榮倉奈々、古舘祐太郎、尾野真千子、木野花、塩見三省、田口トモロヲ、仙道敦子、伊藤蘭、宮本信子
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/konoseka_tbs/

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