平成という時代は今後どう語り継がれていく? 90年代リバイバル作品から読み解く

平成という時代はどう語り継がれる?

 これは『SUNNY』も同様である。本作のコギャルたちは、援助交際とドラッグはご法度という健全な集団で、逆にドラッグをやったコギャルは悪役として描かれる。また、韓国映画では学生運動に燃える主人公の兄は、『新世紀エヴァンゲリオン』にハマっているオタクとして描かれている。本来、対応すべきはオウム真理教や、神戸で殺人事件を起こした14歳の少年ではないかと思うのだが、90年代の負の部分は背後に追いやられている。

 余談だが、アニメオタクの兄は揶揄の対象として扱われているが、90年代以降の日本のポップカルチャーの流れを見た時、生き残ったのはコギャルではなくオタクだったと言えよう。ゲームセンターで格闘ゲームばかりしている中学生が主人公の『ハイスコアガール』が明るいのは、ゲームにハマっている彼に未来があるからだ。

『ハイスコアガール』(c)押切蓮介/SQUARE ENIX・ハイスコアガール製作委員会 (c)CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED. (c)CAPCOM U.S.A., INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 原作に忠実な『リバーズ・エッジ』だが、最後の印象だけは大きく違う。エンディングで流れる小沢健二の「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」は、小沢が岡崎京子との個人的な思い出を回顧する歌であると同時に、原作漫画(が発表された90年代)のその後のイメージが歌われており、この曲を配置することで、90年代という暗いトンネルをくぐり抜けたわたし達の物語として『リバーズ・エッジ』を上書きしようとしているように感じた。

 『SUNNY 強い気持ち・強い愛』でも小沢健二の「強い気持ち・強い愛」が象徴的な楽曲として使われるのだが、役割はとても似ている。

 今思うに、小沢健二の楽曲が持つ明るさは90年代後半の空気とはズレたものだった。時代を体現していたのは小室哲哉の楽曲や『新世紀エヴァンゲリオン』であり、そのカウンターとして小沢健二は居たのだと思う。だから、90年代という絶望の果てに、小沢健二を希望として召喚したくなる気持ちはわからないでもない。

『半分、青い。』(提供=NHK)

 『半分、青い。』における星野源の主題歌「アイデア」も同じ役割を果たしている。本作は71年代まれの女性を主人公にしたドラマで、序盤は80年代末から90年代初頭を懐かしむ懐古的なムードが強かったが、それが後ろ向きに見えなかったのは、主題歌によるところが大きい。

 おそらくみんな、90年代のイメージを健全なモノに上書きしたいのだろう。その気持ちはわからないでもないが、その結果、失われるものがあることを忘れてはならないと、あの時代に思春期を過ごした一人として思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■公開情報
『SUNNY 強い気持ち・強い愛』
全国東宝系にて公開中
出演:篠原涼子、広瀬すず、小池栄子、ともさかりえ、渡辺直美、池田エライザ、山本舞香、野田美桜、田辺桃子、富田望生、三浦春馬、リリー・フランキー、板谷由夏
原作:『Sunny』CJ E&M CORPORATION
監督・脚本:大根仁
音楽:小室哲哉
配給:東宝
(c)2018「SUNNY」製作委員会
公式サイト:http://sunny-movie.jp/

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