The Wisely Brothers 真舘晴子が『万引き家族』を観る 「日本でのヒットは社会的にも意味がある」

真舘晴子が語る『万引き家族』

「こういう作品が日本でヒットするのは、社会的にも意味がある」

 特に印象に残ったのは、リリーさん演じる治と祥太が駐車場みたいなところで走り回る序盤のシーン。そのときの彼らの状況は、お金もなくて、仕事もうまくいかない。家族にいろんなことが起きているけれど、2人のそのときだけの時間は本当に楽しそうで。たとえどんな問題を抱えていても、そういう時間は誰しもにあるんじゃないかなと。そういう時間があってもいいと思うんです。それが夕暮れ時の空気感とすごくマッチしていて、ノスタルジックな気持ちになりました。

 そして個人的に一番気になったのは、家族が暮らしている家。座布団や布団、こたつなど家の中に物がたくさんあって、色味的にもくすんだ色味の多いあの家の雰囲気は、すごく日本的ですよね。生活感が漂っていて、外国の人からしてみてもすごく新鮮なのではないかと思いました。

 この映画を観たあと、自分にとっての家族って一体なんだろうと思いながら帰ったんです。そういうことって毎日考えることではないし、考えても答えは出ない。でも、自分で考えるきっかけになりました。

 私自身、それに多くのひとがそうであるように、いわゆる“普通の家族”の中で育ったわけではないので、家族にはいろんな形があるということはすごくすんなりと受け入れることができました。その人たちを家族と呼ぶか呼ばないかは別として、育っていく上で近くにいてくれた人、信頼できた人、助けてもらった人たちは、人生においてすごく重要な存在になっていく。この作品の場合は、その人たちが“ある問題”を抱えているわけで、そこが議論を呼ぶポイントになっている。でも、祥太にとっては、彼が成長して大人になったとき、問題があった治たち家族の見え方も変わるんだろうなと思ったんです。そのときは全く気がつかなかったことが、大人になったときに逆に見えてくる。ラストの祥太のその後が、とても重要な意味を持つ作品になっているなと感じました。

 観た人が何か感じることがあるからヒットに繋がっているわけで、こういう作品が日本でヒットするのは、社会的にも意味があるのではないでしょうか。顛末にかけての流れはことばを必要としない美しい映像で、カンヌでパルムドールを受賞したのも納得の作品でした。

(取材・構成・写真=宮川翔)

■真舘晴子
The Wisely BrothersのGt/Voを担当。
都内高校の軽音楽部にて結成。オルタナティブかつナチュラルなサウンドを基調とし会話をするようにライブをするスリーピースバンド。
2014年下北沢を中心に活動開始。
2018年2月キャリア初となる1st full album「YAK」発売。
公式サイト:http://wiselybrothers.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/wiselybrothers/

■公開情報
『万引き家族』
公開中
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、緒形直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美、柄本明、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林
製作:フジテレビ、ギャガ、AOI Pro.
配給:ギャガ
(c)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
公式サイト:http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku

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