初登場1位『MEG ザ・モンスター』 中国マーケット向けハリウッド大作の倒錯した楽しみ方

中国マーケット向けハリウッド大作の楽しみ方

 ただしーーこれは『ジオストーム』にも言えることだがーーそうしたストーリーの大味さには、二通りの倒錯した観客の楽しみ方があるとも言える。一つは、現在ほどハリウッド大作の脚本が練り上げられてなくて、エンターテインメント作品のメインストリームが能天気さに支配されていた時代、いわば『ダークナイト』以前、あるいは(脚本のクオリティでは映画界よりもレベルが高くなっている)テレビシリーズ黄金期以前の、90年代頃までのハリウッド大作映画的な楽しさがそこにあること。もう一つは、先述したリー・ビンビンのキャラクターに象徴されるように、我々がハリウッド映画で長らく親しんできた一般的なセオリーから逸脱した行動を登場人物がすることで、単純にストーリーが予測不可能であるということだ。

 もちろん、ハリウッドが中国マーケットを現在ほど意識していなかった時代から、『トランスフォーマー』シリーズや『ワイルド・スピード』シリーズなどを筆頭に大味なアクション大作は作られていた。しかし、まさに『トランスフォーマー』シリーズや『ワイルド・スピード』シリーズの近作の中国における記録的な大ヒットが、中国の映画市場が爆発的成長をするきっかけとなってきたという事実も無視はできないだろう。近年の『ワイルド・スピード』シリーズで活躍しているジェイソン・ステイサムが『MEG ザ・モンスター』で主役を張り、中国の大連万達グループ傘下となったレジェンダリー・ピクチャーズ製作の『スカイスクレイパー』(日本公開9月21日)でも『ワイルド・スピード』でお馴染みのドウェイン・ジョンソンが主役を張っているのには、そのような背景もあるのだ。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

■公開情報
『MEG ザ・モンスター』
丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほかにて公開中
監督:ジョン・タートルトーブ
原作:スティーヴ・オルテン(『THE MEG』)
撮影:トム・スターン
美術:グラント・メイジャー
出演:ジェイソン・ステイサム、リー・ビンビン、レイン・ウィルソン、ルビー・ローズ、ウィンストン・チャオ、ペイジ・ケネディ、ジェシカ・マクナミー、オラフル・ダッリ・オラフソン、ロバート・テイラー、クリフ・カーティス、ソフィア・シューヤー・ツァイ、マシ・オカほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
2018年/アメリカ/カラー/デジタル/英語/113分/原題:The Meg/映倫区分:G
(c)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., GRAVITY PICTURES FILM PRODUCTION COMPANY, AND APELLES ENTERTAINMENT, INC.
公式サイト:www.megthemonster.jp

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