“青春”は大人だけが持つ宝物だ 『高崎グラフィティ。』が描く“あの頃”の本当の姿

『高崎グラフィティ。』の瑞々しさ

 作中、5人は青春という活動にこだわり続ける。しかし何よりの青春は、朝まで起きていることでも、1つのプロジェクトに一丸となって打ち込むことでも、ましてや花火の真似事でもない。危ない橋を渡ることに躊躇しない無鉄砲さや、親の力で簡単に絶望の淵に立たされてしまうような、曖昧な存在に宿る。大人でも子供でもない、社会での振る舞い方も、器用な逃げ方も知らない5人が、ぶつかり合いながら悩むことに真の青春が宿ると感じた。その表現を、既に青春を超えてきた川島監督、主演を勤めた佐藤、撮影を担当した武井でまっすぐに紡いでいく。予告編から先に生まれ長編化された異色の映画は、かつての青春をともにした学友ならではの青臭い魅力に包まれた。

 本作の映像では朝の青色に包まれた空や、西日の差す部屋での5人の表情など映像の儚さにも注目したい。いつ消えてもおかしくないような空模様や光に包まれ、大切な一瞬を刻んでゆく。その不安定さは美紀たち自身が思い悩む姿とリンクした。5人の無垢で繊細な心はそんな映像を通してもガラスのように輝いて見えた。鑑賞後は思わず大きく息を吸いたくなる。高崎の広い土地と澄んだ空気を一緒に吸えるような気がするのだ。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■公開情報
『高崎グラフィティ。』
全国公開中
監督:川島直人
出演:佐藤玲、萩原利久、岡野真也、中島広稀、三河悠冴、佐藤優津季、冨手麻妙、狩野健斗、山元駿、JOY、篠原ゆき子、戸田昌宏、玄覺悠子、川瀬陽太、奥野瑛太、渋川清彦
脚本:小山 正太
撮影:武井俊幸
制作プロダクション:オフィスクレッシェンド
配給:エレファントハウス
(c)2018 オフィスクレッシェンド
公式サイト:http://takasaki-graffiti.com/

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