阿部寛が明かす、“加賀恭一郎”の8年間 「『新参者』シリーズは役者としての基盤を支えてくれた」

『祈りの幕が下りる時』阿部寛インタビュー

加賀の感じ方、考え方が僕自身の精神になった

ーーシリーズの完結編となる映画『祈りの幕が下りる時』は、加賀の心情や過去も物語の展開に絡んでいきます。演じるうえでどんな工夫がありましたか?

阿部:あえて何も考えませんでした。『祈りの幕が下りる時』は親父(加賀隆正)との確執というのが一番大事なテーマで、それは加賀自身のテーマでもある。『赤い指』(2011年放送のTBSスペシャルドラマ第1弾)の時から、隆正(山崎努)という父親との関係を、加賀はずっと引きずっています。ですから、たとえ親子であっても刑事のように淡々と隆正との関係を保っていく中で果たして加賀はどのような決着をつけるのか、ある種、客観視しながら見ていました。それが、加賀ならではの感覚なんでしょうね。8年間そういう思いを持ち続けてきたから、その加賀の感じ方、考え方が僕自身の精神になったみたいな感じでした。

ーー刑事ものですが、シリーズを通して親子のつながりの話でもありましたね。

阿部:そうですね。もし家族関係の中で犯罪が起こっても家族の誰かが犯罪に巻き込まれたとしても家族の繋がりや血は簡単には断ち切れないじゃないですか。だからこそ、作品の中でその関係を連続的に描いていくことによって、色々な家族のあり方を知ることができる。結局、加賀も家族の問題は完全には解決しきれない。でも、そこになにか足跡を残していくんですよね。それでも加賀は生きていくというか、彼の感じた生きることの切なさが『新参者』シリーズには流れていると思います。

ーー今作はドラマ版とは違う映画ならではの骨太なドラマに仕上がっています。福澤克雄監督は『下町ロケット』(TBS系)でも一緒にドラマを作っていますが、ドラマと映画で演出の違いは感じましたか?

阿部:今回福澤さんと初めて一緒に映画をやらせていただきましたが、福澤さんの撮影体制は、ドラマとはそんなに変わってなかったような気がします。『新参者』シリーズの一番最後を福澤さんに撮ってもらったらどうなるだろう?と個人的な興味もありました。素晴らしい作品に仕上げてくださり嬉しかったです。これだけ長く続いて、知名度もある作品を一番最後にまとめるのは、すごく難しかったと思います。福澤さんは「刑事ものは苦手なんだよ」と言ってましたけど(笑)、そこに焦点を当てて作り上げてくださったことに感謝してます。

ーー加賀の人物像について、福澤監督は何と話していましたか?

阿部:福澤さんが原作を読んで「これはマザコンってことにしましょう」とおっしゃっていて、「そこか!」と思いました。それで、福澤さんだから福澤さん独自の世界観があるだろうなとお任せしたんですよね。話のテンポも上がっていて、捜査会議のシーンからドキドキするような展開で始まっていく。あのスピード感は、すべて飽きさせることなく作っていくという福澤さんならではのやり方だったと思います。その上で泣ける要素や感動があるという作りは、これまでのシリーズとは違う魅力が出ていると感じました。

ーー従弟役の松宮脩平を演じる溝端淳平さんは、シリーズ1作目から出演していますが、阿部さんから見てどんな人ですか?

阿部:彼は屈託のない明るい人間です。1作目の『新参者』の時、溝端くんは20歳で、その時から一緒にやってるので非常に長い付き合いになりました。『眠りの森』は『新参者』の前日譚であり、溝端くんは出演していませんでしたが、『新参者』シリーズに対する思いは、彼自身強く抱いていたみたいで、今回久しぶりに一緒に演じて、彼の心が強く育ったんだなと感じました。『祈りの幕が下りる時』の前半戦は、溝端くんが引っ張っていく役だったので、彼の力強さが目立ったと思います。裏エピソードとしては、最後の舞台挨拶が終わって、そのあと彼は仕事があって仮打ち上げみたいなのを途中で抜けたんですが、それでは収まりきらずに、次の大入りの舞台挨拶の時に打ち上げをもう一度やってくださいと(笑)。その後、打ち上げを改めて開いたのですが、本当に熱い思いを伝えてくれて。やっぱり嬉しかったですよ。一緒に作品を作り上げた仲間がそのような思いを持ってくれたことがね。

ーー本作のキーマンである浅居博美を演じる松嶋菜々子さんとは初共演です。

阿部:松嶋さんは素晴らしい女優さんでした。現場で色々話をさせてもらったんですが、すごく深みがある方でした。一緒にお芝居をしてても目線だけで伝わってくるものがあり、心でお芝居される方なんだなと。気負うようなシーンでも、力が抜けていてとても自然でした。印象深いシーンが2つあります。1つ目は、映画のクライマックスとなる明治座の演出家室の狭い空間でのシーン。このシーンでは、松嶋さんはリハーサルから涙を流されていました。僕はそれがすごく嬉しかったし、あの芝居の強さが見事に映画の最後、本シリーズの最後を締めることに繋がったように思います。もう1つは、浅居博美に加賀恭一郎が出会った剣道教室のシーン。加賀としても、僕自身としても、これから松嶋さんと芝居をしていくんだ、という覚悟のようなものを覚えた場面だったのですが、歩いてくる松嶋さんの姿にもこの作品に対する覚悟のようなものが感じられ、今でもはっきりと記憶に残っています。共演シーンではありませんが、浅居博美の親を演じた小日向文世さんとのシーンは本当にすごかった。あの鬼気迫る様子は役者というもの、演じるということを超えたものだったように思います。

ーー阿部さんが座長として意識されたことは?

阿部:座長として特に意識したことはあまりないんです(笑)。それぞれのキャストが自身の限界に挑んで芝居をしている。その姿を一番間近で見ることができることが非常に嬉しかったし、福澤さんの現場は、みんなが自分の能力を少しずつ超えていくような感覚があります。新しいキャストも加わって一緒に戦っていく環境が心地よかったです。

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