木村拓哉と二宮和也、アプローチの異なる名演! 『検察側の罪人』が必見作である理由

『検察側の罪人』が必見作である理由

 一方、役者の仕事においては「ふらりと現場に現れ、ふらりと現場から帰っていく」といったようなイメージを、共演者の証言だけではなく、自身のインタビューでのこれまでの発言からも形成してきた二宮和也。以前は頻繁に「台本は自分の台詞のところしか読まない」とも語っていたが、本作のタイミングで自分がおこなったインタビューではこんなことを語ってくれた。

「何かの役を演じる時に、医者でも検事でもそうですけど、その職業のことはあまり見てないんですよ。すべての作品は結局のところ人間ドラマだと思うから。一つの組織があって、そこに先輩がいて、自分は後輩で、一緒に事件を調査することになって。そこでも、その事件がどうこうということよりも、その事件に関わっている時にそれぞれの人の心の中に動きがあって。自分が演じるのは、人間であり、その心の動きだから。自分がそこで考えるのは、それがちゃんと伝わるかどうかってことだけです」(『シアターカルチャーマガジン T. 38号』)

 別に自分はここで「努力型の木村拓哉」と「天才型の二宮和也」といった類型を提示したいわけではない。言うまでもなく、これまで木村拓哉は役者としてもその天才的な反射神経を発揮してきたし、きっと二宮和也は「努力を努力と見せない」という強固な美学の持ち主だ。しかし、芸能界的な事件として情報だけが消費されがちな「木村拓哉と二宮和也の初共演」は、それ以上にまったく異なるアプローチ方法を持ったスターアクター同士の共演として、極めて興味深い「スクリーンの中で起こっている事件」であることは強調しておきたい。

 思えば、木村拓哉は90年代中盤から、二宮和也は00年代中盤から、映画でもドラマでも、少なくとも国内で製作された作品に関してはほとんどすべての作品で主役スターとしての重荷を背負ってきた。しかし、他のどんな役者もそうであるように、木村拓哉にも二宮和也にも、役者としての活動初期には「異常に吸引力のある脇役として注目を集める」というフェーズがあった(三番手として出演した1993年のドラマ『あすなろ白書』(フジテレビ系)が木村拓哉ブームの、さらにはSMAPブームの起爆剤となったことはあまりにもよく知られている逸話だろう)。『検察側の罪人』の役者としての「座長」的立場が木村拓哉であったことは間違いないが、木村拓哉も、そして二宮和也も、本作ではまるで役者としての活動初期のように、作品の看板を背負うことのプレッシャーから解放されて、近年の作品では見たことがないほど活き活きと役を演じている。

 原田眞人監督はそうしたこともすべて計算ずくで、実際に作品を観た人ならば誰もがわかるほど明白に『検察側の罪人』を自身の作家性とメッセージで染めあげてみせたのかもしれない。「責任はすべて俺がすべてとる。だから好きなようにやってくれ」といったように。木村拓哉にとっても、二宮和也にとっても、本作が「特異点」ではなく、役者としてのさらなる黄金期への有意義な「ステップ」となっていくことを心から期待している。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

■公開情報
『検察側の罪人』
8月24日(金)全国東宝系にて公開
監督・脚本:原田眞人
原作:『検察側の罪人』雫井脩介(文春文庫刊)
出演:木村拓哉、二宮和也、吉高由里子、平岳大、大倉孝二、八嶋智人、音尾琢真、大場泰正、谷田歩、酒向芳、矢島健一、キムラ緑子、芦名星、山崎紘菜、松重豊、山崎努
製作・配給:東宝
(c)2018 TOHO/JStorm
公式サイト:http://kensatsugawa-movie.jp

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