観る側の心の迷いも吹き飛ばす 壮絶サバイバル『マイナス21℃』が魅せる凄み

『マイナス21℃』が魅せる凄み

スタントマン出身監督と主演ジョシュ・ハートネットの共闘

 このように本作は、過酷な自然環境と実人生とをオーバーラップさせながら生存への道を探っていく。そんな物語であるがゆえに、何よりも重要となってくるのが、主人公の心象表現を兼ねた大自然の映像である。正直、この映画の予算や規模からすると割に合わないくらいの本気度で、観ているこちら側もその気迫に押され、思わず姿勢を正してしまうほどだ。

 これらを手がけたのは『ネイビー・シールズ』(12)や『ニード・フォー・スピード』(14)で知られるスコット・ウォー監督。長年、命の危険を顧みないスタントマン仕事でキャリアを積んできた彼は、とことんすぎるほどのリアルな実写主義でも知られる。今回もCGに頼らずにこだわり抜いた映像からは、それがたとえ無音で、孤独で、荘厳な場面だったとしても、やはりウォー監督流のリアルさを追究するスタント精神が脈々とみなぎっているのが見て取れる。

 そして、彼の期待に応えようと奮闘したジョシュ・ハートネットの「ほぼ1人芝居」にも目を見張るものがある。190センチもの長身と屈強な肉体を持つ彼は、これまで『パール・ハーバー』や『ブラックホーク・ダウン』などを始め数々のアクション映画でも活躍してきた。このところ持ち前のスケール感を堪能できるような映画からは遠ざかっていたが、しかし2015年に初めてのお子さんが誕生してからだろうか、再び意欲的に様々なジャンルの映画へ出演を重ねて息を吹き返し始めているように思える。

 とはいえ、本作でのジョシュは湖に落ちてずぶ濡れになったり、雪の中で全裸になって凍えたり、挙げ句の果てには精悍な顔立ちもすっかり雪と氷柱まみれとなって痩せこけていく、壮絶な満身創痍ぶり。しかも監督のインタビューなどからすると、どうも雪山でのシーンは「順撮り」だったらしく、そういったことを聞くと、刻一刻と変わりゆくジョシュの表情、肉体、心象表現が整合性を持って真に迫っていたのも深く納得するばかりである。こういった作り手側からの過酷な要求に応えつつ、さらには撮影の最中に食事制限までして体重を落としていったというから、本当にストイックな役者根性が炸裂していると言っていい。

 かくも作り手と俳優の熱過ぎる想いを乗せて、主人公の「生きたい」という生存本能をスパークさせた本作。観ているだけで冷え冷えとする映像はこのところの酷暑続きですっかり煮立った身体を瞬間冷凍する上でも打ってつけの効果がありそうだが、あえて主人公の生き様に身を委ねることで、観る側の心の迷いさえも一緒に吹き飛ばしてくれそうな作品でもある。

 ちなみに、本稿を執筆しながら今気付いたのだが、本作『マイナス21℃』が日本で劇場公開を迎える7月21日は、偶然にもジョシュ・ハートネットの40歳の誕生日のようだ。ついに突入する40代。この先、一体どんな俳優へと進化を遂げようとしているのか。心身ともに極限まで捧げ尽くした本作は、今後の彼を占う上でもまさに試金石と呼ぶべきものなのかもしれない。

参考:https://www.heyuguys.com/scott-waugh-interview-6/

■牛津厚信
映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。

■公開情報
『マイナス21℃』
7月21日(土)より新宿シネマカリテほかにて全国順次公開
監督:スコット・ウォー
出演:ジョシュ・ハートネット、ミラ・ソルヴィノ
配給:松竹メディア事業部
2017年/アメリカ/カラー/5.1ch/約98分/原題:6 Below
(c)2016 Six Below LLC.All Rights Reserved.
公式サイト:minus21c.com

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