俳優・山崎賢人の確かな“内面”と“文体” 『羊と鋼の森』はキャリア上の重要な作品に

山崎賢人、『羊と鋼の森』は重要な作品に?

 「ひとつひとつ、こつこつ」努力を続ける主人公の姿勢は、山崎が本来もっている、ふわふわとした柔らかさと親和性がある。「お芝居するというこがよく分からない時期」にさしかかっていた時に演じられる外村という人物像は、演じるということを根本から考え直す格好の役柄であった。外村は演じるということを根本から考え直す格好の役柄であったのだろう。

 山崎の演技の基本は、自分自身との“対話”にあると考えられる。山崎が心の声にじっと耳を傾けているとき、彼にとっても無意識的なものなのか、観客をハッとさせるような表情をすることが多いように思われる。多くの観客を魅了してやまない表情の裏には、そのような対話のメカニズムの不思議がある。しかし、その問答が念入りになりすぎると、演技のバランスが崩れてしまうこともある(実際、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』ではそのような瞬間が見受けられた)が、山崎に限っては「迷い」と「探り」の演技が、かえって魅力的に映ってしまう。さらに本作では、演じるべき「他者」(キャラクター)との対話が可能となったことで、心の中で繰り広げられる対話はより慎重で繊細なものとなり、「ひとつひとつ、こつこつ」という演技姿勢が大いに活かされた。その結果として、あれだけ調和のとれた好演をすることができたのだとすれば、山崎は俳優として演じることの実感を得たのではないだろうか。

 本作を観た観客の多くが、山崎賢人を、もうただの“イケメン俳優”とは呼ばないはずだ。イケメンは“見た目”だけで決まってしまうが、俳優・山崎賢人には確かな“内面”と理想的な“文体”がある。その意味で、本作が山崎にとって過渡期となり、『陸王』や『トドメの接吻』での印象的な演技に繋がっていくのだが、この夏の新ドラマ『グッド・ドクター』で演じるサヴァン症候群の青年医師役は、またしても“対話”が求められるキャラクターとなりそうだ。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

(文=加賀谷健)

■公開情報
『羊と鋼の森』
全国東宝系にて公開中
出演:山崎賢人、鈴木亮平、上白石萌音、上白石萌歌、堀内敬子、仲里依紗、城田優、森永悠希、佐野勇斗、光石研、吉行和子、三浦友和
原作:宮下奈都『羊と鋼の森』(文藝春秋刊)
監督:橋本光二郎
脚本:金子ありさ
音楽:世武裕子
(c)2018「羊と鋼の森」製作委員会
公式サイト:http://hitsuji-hagane-movie.com/

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