“涙を誘う感動映画”のイメージを乗り越える 『ワンダー 君は太陽』の壮大な世界

『ワンダー 君は太陽』の壮大な世界

 オギーが偏見やいじめにさらされながらも、つぶれないでいられたのは、まず家族のサポートがあった。ポジティブな考え方を教え、自分への肯定感を持つことを促してきた母親。現実を生きる上での具体的なアドバイスと、ユーモアを忘れない姿を見せてきた父親。そして姉は、同じ現役の学生としての目線から、最も悩みに寄り添ったアドバイスを送る。両親を演じたジュリア・ロバーツやオーウェン・ウィルソンが、主役級の俳優であることからも分かるように、オギーを支える彼らは、彼と同じほどの重みを持つ大事な役なのだ。

 さらに、学校生活の最大の希望となる親友や、心優しく勇気があるクラスメイト、真っ当にいじめ対策を施す校長や教師など、魅力的に描かれている彼らの誰かが欠けても、オギーの精神は押しつぶされていたかもしれない。これが示しているのは、差別や偏見を許さないという、正しい価値観を持った社会がなければ、ある人間の輝きを奪ってしまうことがあるという事実である。

 人種差別、女性差別の支配する社会で夢を追う、アフリカ系アメリカ人女性の活躍を描いた映画『ドリーム』(2016年)では、類まれな能力があるのに、保守的な文化や偏見によって、活躍の場が奪われるという現実が描かれていた。舞台となった60年代当時、アフリカ系や女性の市民が高い地位につくということは国のためにならないと、保守的な人々は考えていた。そのような差別を受ける主人公の頑張り、そして周囲のサポートがあったことで、彼女の研究はソ連との宇宙開発競争の力になり、結果的にそのことが国に貢献することになったのだ。多様性を受け入れ、周囲がそれを支えるということは、より正しい社会を作ることと同時に、共同体全体を助けることにもつながるのである。

 オギーは将来、その能力によって、世界を変える奇跡を起こす特別な子どもなのかもしれない。そうだとしても、たとえそうでないとしても、彼は一人ではないし、彼の周囲の人間も誰かとのつながりを持つことで存在が確立し、互いに成長し続けることができるというのは確かなことだ。

 本作が描いているのは、太陽系を模した、ひとかたまりの人間関係である。それを観客に示すことは、本作が描かなかった他の太陽系が無数に存在することをも暗示していることになる。そして、われわれの現実に広がっているのは、人間たちの複雑な関係性によってかたちづくられる、宇宙的で広大な世界なのかもしれないということを表現しているのだ。

 宇宙で一つの星を助けることが、無数の星に影響を与え、結果的に宇宙全体を救うことになるとしたら…。人に親切にすることは、特別な人間でなくともできる行為のはずである。『ワンダー 君は太陽』は、宇宙的な世界観によって、全ての人に、誰かを支えることができるという価値と、宇宙を変えるかもしれない希望が与えられていることを語りかける映画なのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ワンダー 君は太陽』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
原作:R・J・パラシオ『ワンダー』(ほるぷ出版刊)
監督・脚本:スティーヴン・チョボスキー
製作:トッド・リーバーマン デヴィッド・ホバーマン
出演:ジュリア・ロバーツ、オーウェン・ウィルソン、ジェイコブ・トレンブレイほか
配給:キノフィルムズ/木下グループ
(c)2017 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC and Walden Media, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://wonder-movie.jp/

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