永野芽郁と佐藤健は再び交わるのか? 『半分、青い。』独特な“過去”の扱い方から読む

『半分、青い。』“過去”の扱い方を読む

 正人は鈴愛と律の過去に立ち入り、その関係の深さを当事者以上に察し、だからこそ身を引いた人物だ。高校受験の失敗という律の挫折を語る上で重要なエピソードの別の側面を担い、共有していたという意味で、律とは“運命”の関係でさえある。鈴愛が上京して初めて吹いた律を呼ぶ笛に反応したのも正人だった。律にとっての鈴愛の代理にも、鈴愛にとっての律の代理にもなり得た。

 律と鈴愛の聖地とも言える、幼少期、糸電話をした川にも訪れる。だが、律から糸電話の話を聞いて「俺もやりたかった」と答えることで、律との友情を育む上でも、鈴愛と恋愛する上でも、正人はどうやっても律と鈴愛の過去、その関係の間に入り込むことができないことを示すのである。律が、鈴愛と律の関係性について語る正人に対して「俺と鈴愛の歴史を語るな」と投げかけるように、正人でさえ、鈴愛と律2人の歴史、過去は介入することはおろか、語ることも許されない。

 逆に清は自分が立ち入ることのできない過去に嫉妬し、彼らの関係を全力で壊しにかかる。モノクロの過去にすみれ色の爪でバツ印を書く。律の身体の一部をすみれ色に染めようとする。

 それに対して、鈴愛がありもしない律の所有権を主張してしまうという事件が起こるわけだが、鈴愛にとっては律の存在はなくなると「立っている地面がなくなってまうみたいで怖い」存在だったからだ。それは彼女が左耳を失聴し、「私の世界半分」失くしたときの、「か細く頼りない、足元がグラグラして、心もとない」世界と同じだ。律はいつの間にか失くした鈴愛の片耳、半分の世界の代わりになっていた。鈴愛の身体の一部だった。

 鈴愛はボクテとユーコに問いかける。正人のことは「触れたいと思った、好きだった」、それはきっと恋だった。「触れた記憶、触った記憶ない、それが私と律」、恋なんかよりもっともっと深いところにある。「(鈴愛と律の関係は)何色?」と問いかけられたユーコは「色はちょっとわからん」と答える。鈴愛がその関係性を色で例えようとしたのは、清のすみれ色に対する対抗心からだろう。

 そしてそれは恐らく「青」だ。清自身が律に言った「井の中の蛙、大海を知らず、空の青さを知る」と言う言葉どおりに、同じ青い空の思い出を共有する鈴愛に清は勝てない。

 だがそれにはまだ、時間が必要なのだろう。あまりにも片方に寄りかかりすぎた2人、共有し続けた長すぎる過去、七夕の2人という運命神話に、気づかないうちに頼りすぎてしまった2人は、それぞれが自分の足で自分の世界を形成するまでしばらくの時間を要する。その後の2人の世界を見つめるのは、鈴愛が自ら描く漫画によって新しい世界を切り開くまで待つことにしよう。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『半分、青い。』
平成30年4月2日(月)~9月29日(土)<全156回(予定)>
作:北川悦吏子
出演:永野芽郁、松雪泰子、滝藤賢一/佐藤健、原田知世、谷原章介/余貴美子、風吹ジュン、中村雅俊/豊川悦司、井川遥、清野菜名、志尊淳、中村倫也、古畑星夏
制作統括:勝田夏子
プロデューサー:松園武大
演出:田中健二、土井祥平、橋爪紳一朗ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/hanbunaoi/

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