特大ヒット『万引き家族』 その「前例のなさ」を紐解く

『万引き家族』の「前例のなさ」を紐解く

 また、テレビドラマの安易な映画化、あるいは放送外収入を目的とする自局番組での大量番宣など、しばしば批判にさらされることのあるテレビ局による映画ビジネスだが、実は2013年以降の是枝裕和作品、つまり、『そして父になる』(2013年)、『海街diary』(2015年)、『海よりもまだ深く』(2016年)、『三度目の殺人』(2017年)、そして『万引き家族』(2018年)は、すべてその製作にフジテレビが入っている。今回の『万引き家族』の公開前には過去作品をプライムタイムに連続放送するなど、大ヒットの要因の一つにはフジテレビのバックアップもあったに違いないが、これまであまり一般的に是枝作品=フジテレビのイメージがなかったとしたら、他のテレビ局製作作品のようなバラエティ番組での番宣をあまり露骨にしてこなかったからだろう。フジテレビの映画事業部は、文字通り純粋な「映画事業」として是枝裕和作品を大切に扱ってきた。

 今回はカンヌでのパルムドール受賞という大きなトピックがあったことで、『万引き家族』の製作に名を連ねているフジテレビ系列の番組に限らず、NHKを含む各局がニュース番組などでも積極的に作品を取り上げることとなった。それは逆に言えば、カンヌの受賞でもなければ、本来テレビという影響力の強いメディアが持つ映画の宣伝効果が健全に働かないということを浮き彫りにしたとも言えるのではないだろうか。既に各メディアが報じているように、作品の内外において様々な問題提起のきっかけとなっている『万引き家族』だが、興行においても本作の大ヒットから学ぶべきことは多い。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

■公開情報
『万引き家族』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、緒形直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美、柄本明、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林
製作:フジテレビ、ギャガ、AOI Pro.
配給:ギャガ
(c)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
公式サイト:http://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku

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