“幼い乙女”のままの木村多江 『あなたには帰る家がある』はさまざまな愛情を提示する

『あな家』“幼い乙女”のままの木村多江

 しかし、真弓は手の込んだ料理を用意しなくても、秀明に想われ、多くの友だちにも囲まれている。桃をムースなんかしなくても、丸かじりのほうが美味しいとまで言ってくる。それが、どれほど綾子にとって羨ましいことか。なんの策略なく愛情を手に入れる女性、という存在そのものに綾子は最も固執しているように見えた。

 今や“かわいそうな私”作戦も秀明には通じない。太郎だけが、綾子を「守ってやりたかった」と涙を流しているのだが、その愛情も伝わらない。なぜなら太郎の愛は、“ごっこ”ではないからだ。しかし、太郎もバースデーソングを歌ってほしいといえば腹から歌ってくれるチャーミングな一面もある。真弓のように策略なくストレートに求めれば返してくれるのだが……。

 そうこうするうちに、真弓と太郎は同じ悲しみを抱える同士、麗奈(桜田ひより)と慎吾(萩原利久)は秘密を共有する同士、急接近。ラスト2話で、どんなクライマックスを迎えるのかハラハラするばかりだ。結婚はゴールではなくスタートというが、不倫も、離婚もまた然り。どんなに愛されても、傷ついても、人生は続く。桃にかぶりついて、人のものを欲しがってばかりでは、手に入れるどころか指の隙間からボタボタと、幸せがこぼれ落ちていく。きっと支え、与え合える人が集まってこそ、“帰る家”になるのだから。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』
TBS系列にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:中谷美紀、玉木宏、ユースケ・サンタマリア、木村多江、駿河太郎、笛木優子、高橋メアリージュン、藤本敏史(FUJIWARA)、トリンドル玲奈
原作:山本文緒『あなたには帰る家がある』(角川文庫刊)
演出:平野俊一
脚本:大島里美
プロデューサー:高成麻畝子、大高さえ子
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/anaie/

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