夏川結衣の演技になぜ感情移入してしまう? 『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』史枝役の魅力

夏川結衣、感情移入させる演技力

 その後も、主演を務めた映画『アカシアの道』(2000年)では、認知症になってしまった母親・かな子(渡辺美佐子)を介護する娘・美和子に扮し、母娘の確執や自身の心に向き合う女性をじっくりと演じた。また、数々の映画賞を受賞した『孤高のメス』(2010年)でも、シングルマザーの看護師として、自身の仕事に対する疑問や、母親としてしっかりしているのかという不安が、痛いほど伝わってくる演技に強く感情移入した人は多かっただろう。

 一方、史枝の持つ大らかさや明るさという部分では、名コンビと評判になった阿部寛とタッグを組んだ『結婚できない男』(フジテレビ系、2006年)の内科医・早坂夏美役が印象に残る。こちらもコミカルな作風ではありつつも、自身の立場に不安を抱えるアラフォー独身女性の内に秘めるものは、純粋に「頑張れ!」と応援したくなる。余談だが、その後、阿部とは2008年公開の映画『歩いても 歩いても』で夫婦の役を演じた。

 夏川の魅力というのは、視聴者が役柄に感情移入し「頑張れ!」と応援してしまうキャラクターを嫌味なく演じられるということではないだろうか。『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』を鑑賞した人は、きっと「史枝、好きなように突っ走れ!」と応援したくなるはずだ。

■磯部正和
雑誌の編集、スポーツ紙を経て映画ライターに。基本的に洋画が好きだが、仕事の関係で、近年は邦画を中心に鑑賞。本当は音楽が一番好き。不世出のギタリスト、ランディ・ローズとの出会いがこの仕事に就いたきっかけ。

■公開情報
『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』
全国公開中
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、平松恵美子
音楽:久石譲
出演:橋爪功、吉行和子、西村まさ彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優制作・配給:松竹株式会社
(C) 2018「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」製作委員会
公式サイト:http://kazoku-tsuraiyo.jp/

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