女性主人公の韓国ノワールに新たな一歩ーー『修羅の華』が描く、愛の狂気とシスターフッド

『修羅の華』が描く“シスターフッド”

「オンニ」と「ヌナ」を描く意味

 韓国では、男同士の上下関係の中で年下の男性が年上の男性を「ヒョン(兄貴)」と呼ぶ習慣がある。多くの韓国ノワールでは、この「ヒョン」との関係性が軸になっているものが多い。ちなみに香港には「大哥(兄貴)」という言葉もあり、やはり裏社会での絆を描くときにはポイントとなっていた。日本にももちろん「アニキ」という言葉はあるし、北野武は『BROTHER』という映画も作ったくらいで、こうした関係性はどこのノワールでも切っても切れないものだ。

 しかし、これまでノワールに女性ものが少なかったこともあり、「アネキ」の関係性を描いたものは少なかった。ブロマンスに対してのシスターフッド(女性同士の連帯)である。本作も、さまざまな見え方の軸があるから、「アネキ」というものが中心になっているわけではないが、キム・ヘス演じるヒョンジョンを中心とした女性同士の連帯が垣間見えるシーンもある。

 そんなシーンでは「オンニ」という言葉が効いている。このオンニというのは、女性から女性に向かっていうときの「お姉さん」という意味である。女性同士のシスターフッドがメインの映画ではないが、こうしたシスターフッドを中心に据えたノワールの可能性はまだまだ広がっているのではないだろうか。

 一方で、韓国では年長の女性を呼ぶときに「ヌナ」という言葉もある。これは、男性から女性に向かっていう「お姉さん」という意味だが、この言葉もこの映画では印象的に使われている。

 「オンニ」や「ヌナ」という言葉が印象に残るのは、本作がその言葉の意味を意図して使っているからだろう。これまでのノワールは「ヒョン」を描くものが大半であったが、「オンニ」と「ヌナ」の世界を描こうとしたという点でも、本作は女性が主人公のノワールの新しい形を示せているのではないだろうか。パク・チャヌクの『お嬢さん』は、シスターフッドを描いた作品であったが、ノワールのジャンルでもこの作品を機に、「ヌナ」を描く作品が当たり前のようにできれば、韓国映画はさらに豊かになると思うのだ。

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■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■公開情報
『修羅の華』
6月2日(土) シネマート新宿・心斎橋ほかにて全国順次ロードショー
出演:キム・ヘス、イ・ソンギュン、イ・ヒジュン、チェ・ムソン
監督・脚本:イ・アンギュ
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
2017年/韓国映画/韓国語/91分/シネマスコープ/5.1ch/字幕:崔樹連/英題:A Special Lady/R15+
(c)2017 CINEGURU KIDARI ENTERTAINMENT & SPECIAL PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:shuranohana.com

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