ドレスコーズ志磨遼平、『THIS IS US 36歳、これから』を語る 「どの世代にも訴えかける“穏やかな”ドラマ」

志磨遼平、『THIS IS US』を語る

作品に寄り添う絶妙な音楽の使い方

――音楽の使い方も一般的なドラマとは異なりますよね。

志磨:そう、音楽の使い方なんかも、僕らの世代の懐メロとか当時のヒット曲満載! みたいな感じでくるのかと思ったら、全然そんなことはなくて。ずいぶん渋い選曲でしたよね。

――誰もが知っている名曲という音楽の使い方はしていない。

志磨:主題歌のスフィアン・スティーヴンスは今の人ですけど、挿入歌はブラインド・フェイスとか、ポール・サイモンとか、70年代のが多くて。割とタイムレスな、シンガーソングライター系のものを好んで使っているような印象がありました。時代を象徴するヒット曲を使うのがわかりやすい手法だと思うんです。でも、本作はそれをやっていない。シンガーソングライター系の曲が多く使われているのも、彼らの内省的、私小説的な歌詞が「これは世代ではなく、あくまで個人の葛藤なんですよ」というのを表しているような。

――確かに楽曲の歌詞が、ドラマの内容ともリンクしている。

志磨:それぞれの視点が移り変わる脚本の構成、そして音楽の使い方、とかなり細かいことをやっているドラマだと思います。だけど、視聴者が困惑するような難しい感じは全然しない。そのバランスも本当に絶妙です。

(c)2016-2017 NBCUniversal Media, LLC. All rights reserved.

――台詞で説明するドラマではなく、画面を見ているだけで、音楽を聴いているだけで、観る側のほうがいろいろ気づいて、さらに前のめりになってしまうというか。

志磨:うん。そういった、いやらしくない「上手さ」がありますよね。2話の最後でとある人物が当たり前のように登場するんですが、観ている方がなぜ彼が出てきたのか、そこに気づいたところで終わる。毎回ヒキが上手いから、どんどん続きが観たくなっちゃうんですよね。

近年のドラマにはない“穏やかさ” 

(c)2016-2017 NBCUniversal Media, LLC. All rights reserved.

志磨:あと、最近は『ブラックパンサー』とか『スリー・ビルボード』みたいに、人種間やジェンダー観の問題をテーマに掲げた作品が話題じゃないですか。いわゆる、現代が抱えている闇、そういったものをこの世代で根絶しよう、という気運がどんどん高まっていて。

――そうですね。

志磨:今はそういう「パラダイムシフト」じゃないですけど、旧世代と新世代との間に横たわる「価値観の溝」がどんどん可視化されてきていて。もちろん、すごく当然の流れだと思うんですが、自分の考え方やものの見方が糾弾されている、と感じる人からするとちょっと居心地が悪かったりして、すぐ「ポリコレだ!」とか「マウンティングだ!」とかの意見が出たりして……時代の変わり目に起こる軋みがすごくノイズっぽく入ってくることも多くて。でも、このドラマは最近のそういった作品と似ているようでちょっと違う、というか。なんか、穏やかなんですよね。

――このドラマにも、人種や性別、さらには職業など、さまざまな偏見や対立が含まれているわけですが、それらのものを分断するものにはなってないですよね。むしろ、そういった違いを、どうやって乗り越えるのかが、ごく日常レベルで丁寧に描かれているというか。

志磨:そうですね。登場人物たちが何かを代表するのではなく、あくまでも個人として、問題を解決しようとしているところがいい。主語を大きくしないで、あくまでも自分が蒔いた種をどうやって自分で刈り取るか、みたいな視点でしっかりと描かれていて。登場人物たちは自分の意志で、それぞれ行動を選択するわけですけど、その落とし前みたいなものは、ちゃんとみんな自分でつけようとするじゃないですか。ときに兄弟で助け合いながらも、基本的には自分で解決しようとするっていう。そこが、観ていてすごく心地よいというか。

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