『鋼鉄の雨』は韓国版『シン・ゴジラ』か? 韓国映画に通底する“未完の近代”としての自画像

『鋼鉄の雨』は韓国版『シン・ゴジラ』か?

韓国が危機のもとで見出した希望

 今年2月、韓国のアーティスト、イ・ランにインタビューしたとき、彼女は次のように話していた。

「日本の人たちが北朝鮮のミサイルにおびえている様子は知っているけど、正直よくわからない。韓国で韓国人として生きていると、ひとつも怖くないし、戦争の危険があるなんて誰も思っていない。ただ、韓国の戦争に対する感覚は、日本の地震に対する感覚に近いのかもしれないとは思う。だから、冗談と言っていいかどうかわからないけど、もし戦争や大災害が起きたら電話やネットが使えなくなるから、歩いて友だちの家に行けるように場所だけは把握している、とか、そういう感覚はある。ただ、毎日怖がるとか、北朝鮮で今日何が起きているのかを気にするとか、そういうのはない」(Yahoo!ニュース 個人|「私は『生産業者』。様々な方法で作り、100人、1000人の人に変化を起こすのが仕事」イ・ラン〈下〉

 日本にとっての震災が、韓国にとっての第二次朝鮮戦争なのだとしたら、そしてアメリカの影響から逃れられない状況下で国がかかえる根源的な危機、トラウマと、政府、官僚たちが対峙する「リアルなファンタジー」という意味で、『鋼鉄の雨』は韓国版『シン・ゴジラ』とも言えよう。そして、日本にとって『シン・ゴジラ』がそうであったように、韓国が危機のもとで、そこから見出した希望のひとつのかたちが、本作なのかもしれない。

 なお、その存在と楽曲が心憎い小道具として盛り込まれていたG-DRAGONは現在、南北の軍事境界線に近接した最前線、江原道鉄原郡の陸軍第3師団白骨部隊で兵役についている。これもまた、「未完の近代」のリアルな現実だろう。

 原作は、監督自身の手によるウェブトゥーン(ネットに特化されたコミック)。『アシュラ』(2016年、キム・ソンス監督)に続いて共演しているチョン・ウソンとクァク・ドウォンが、『アシュラ』とは真逆の関係性で登場するのも、韓国映画ファンにはうれしいところだ。

■はん・とんひょん(韓東賢)
1968年東京生まれ。日本映画大学准教授。社会学をベースに、ナショナリズムとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題などについて考えています。最近だと『エッジ・オブ・リバーズ・エッジ』(新曜社)に論考を寄せました。韓国カルチャーは個人的な趣味の範囲ですが、『菊地成孔の欧米休憩タイム』(blueprint)にも対談が収録されています。「Yahoo!ニュース個人」に不定期で執筆中。

■配信情報
Netflixオリジナル映画『鋼鉄の雨』
監督・脚本:ヤン・ウソク
出演:チョン・ウソン、クァク・ドウォン、キム・ガプス、チョ・ウジン、キム・ウィソン、イ・ギョンヨン、チョン・ウォンジュン、チャン・ヒョンソン
Netflixにて独占配信中

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